ドキュメンタリーには、元ジュニアだった男性が4人登場する。
なかには語りながら言葉につまり、こみ上げてくるものを抑えられなくなる男性がいた。彼は自らジャニーズ事務所に応募し、スターを夢見る男の子だった。未来への夢が一瞬にして壊れた15歳の「あの日」は、彼の人生を決定的に変えた。
「合宿所には大人はジャニーさんしかいなく、相談できる人はいなかった。売れてる人に限っては、ジャニーさんのおかげで人生が変わっていると思うので感謝の気持ちはあると思うんですけれど、それと性犯罪は別です」
一方で、「あれは虐待ではなかった」と考える男性もいた。彼は、仲間との古い共通の思い出のように、ちゃかす感じで被害をこう語った。
「小学生や中学生で、初体験はジャニーさんだったと、今でも笑い話です」
70代のジャニー氏に性的なマッサージを強要されながらも、ジャニー氏への愛情を口にする男性もいた。
「やってることは悪いことなんですが、ジャニーさんのことが嫌いじゃない(笑)。(略)僕にとってはそこまで大きな問題じゃないんで、こうやって笑ってしゃべれてるのかなと思います」
さらに被害は受けていないが、ジャニー氏が亡くなる2019年までジュニアとして事務所に所属していたある男性は、もし取引が提示されていたなら「(僕は)有名になるのが夢なので、受け入れると思う」と言い、BBCのジャーナリストを本気で驚愕させていた。
「正直な答えには感謝するが、落ち込みました」
BBCのジャーナリストが追った被害者の大半は、自分を被害者とは考えていなかった。「失礼ですが理解できません」と、ジャーナリストが本気で頭を抱えるシーンは何度も出てくる。また、街中でのインタビューもインパクトがあった。「ヒー・イズ・ゴッド!」と浮かれたように繰り返す若い男性もいれば、「彼が亡くなられた今、触れたくない」と“いい人風”に語る年配の女性もいた。「僕はゲイなんでよ」という若い男性は「LGBTという言葉すらない時代において、(同性愛者であることは)アイドルを育成する上ではマイナスのイメージだったかもしれない」と楽しげに日本社会を説明したりもする。さすがに、「セクシュアリティーの話はしていない、性暴力の話だ」とBBCのジャーナリストが口を挟むのだが、「(性暴力は)表だって追及する問題ではないのかな」と彼は微笑むだけなのだった。