『ストーカーとの七〇〇日戦争』は、著者自らが体験したストーカー被害の全容とストーカー問題の本質に迫ったノンフィクション作品。著者の内澤旬子さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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ここまで壮絶なストーカー被害体験を被害者本人が語った本はかつてないだろう。正に「戦争」と呼ぶにふさわしい体験である。そして、これまでもルポライターとしての手腕を存分に発揮してきた内澤旬子さん(52)の筆力によって、読者もその「戦争」を丸ごと追体験することとなる。
交際相手に別れを告げた途端に電話が鳴りやまなくなり、相手の行動はどんどんエスカレートしていく。相談した警察で知らされる、相手の名前が偽名で前科ありという事実……ほんの出だしを読んだだけでも怖い。でも、続きが気になってページを繰る手を止められない。さらに制度の不備、検事や弁護士の無理解と、状況は筆者を孤立させ、疲弊させていく。これだけ赤裸々に語るのはどれだけ苦しかったかと心中を察する。
「しんどかったですけど、全部なかったことにして、今までみたいに『楽しく小豆島で暮らしてます』みたいなことをもし発信したら、相手が私に対してどう思っているかわからない状態では、またネットへ書き込みが始まったりするんじゃないかというのがあって。それだったら自分から全部ぶちまけた方がいいなと思ったというのもありますし、大規模に公にすればするほど、向こうも手を出しにくかろうと」
内澤さんのケースでは加害者に接近禁止命令が出なかった。加害者が今どこで何をしているのか内澤さんもわからず、依然その存在を常に意識せずにはいられない状態だ。「終わりはないのに制度はどこかで終わってしまう」のがストーカーとの戦いだからこそ、内澤さんは加害者の治療の必要性を訴える。
「自分で行動制御ができなくなる。接近したいという気持ちが止められなくなって実際接近してしまう、攻撃してしまう。それが行動制御にまつわる病気、精神障害であるということがせめて一般常識になっていてほしいです。本人はなかなかそれを自覚しにくく、自分は被害者であってストーカーではないと思うことが多いらしいので。私の件もまさにそうでした」