一方、国内的には強気の姿勢を貫いた。サミットでは自由貿易の重要性を訴えながら、韓国に対しては、テレビやスマートフォンに使う半導体材料の輸出規制に踏み込んだのだ。徴用工問題に対する韓国への対抗措置と言われている。
頭の中にあったのは、参議院選挙だ。
「韓国に対して、どのような態度をとれば支持者が喜ぶかわかっている。とくに憲法改正を念頭に、力強い防衛と外交を選挙公約に掲げる安倍政権としては、現在の日韓関係は選挙が終わるまではむしろ好都合なのです」(同政府関係者)
トランプ大統領が公式の場で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と、南北朝鮮を隔てる軍事境界線沿いのDMZで面会する可能性があると発言したのは、G20閉幕後の記者会見の場だった。
「これから文大統領とソウルに行く」
翌日、トランプ大統領はソウルでの米韓首脳会談を経て、DMZにある板門店へと向かった。日本はこれをただ見守るしかなかった。
文大統領に促されるようにして、軍事境界線へと向かうトランプ大統領。そして、軍事境界線を挟んだ反対側に立つ金委員長。そして次の瞬間、トランプ大統領は現職の米大統領として初めて、軍事境界線を越えた。トランプ大統領、金委員長、そして安倍首相がG20で徹底的に袖にした文大統領の3人が並んで歩く様子は、大々的に世界に発信された。
外務省関係者は、この場に日本がいなかったことについて、皮肉を交えて、こう語る。
「トランプ頼みしかない、官邸主導の外交の行き詰まりなんです。米国からも、全く何も知らされていないというのは、日本が軽んじられていると見られても仕方がない。せめて、日韓首脳会談を開催するべきだった。北朝鮮をめぐり、日本は完全にイニシアチブを失った。結局、拉致問題はこれまで以上に米国頼みです」
北朝鮮をめぐる朝鮮半島の非核化を訴えている核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲国際運営委員は「米朝首脳による歴史的な面会は朝鮮半島および、東アジアの平和に向けた重要な一歩」としながらも、トランプ大統領の行動は、常に大統領選挙を意識した行動原理に基づいていると解説する。