金融・保険の「とるだけ育休」
取得率と平均取得日数の分布を示した図を見ると、取得率が高い企業ほど取得日数が長いわけではなく、むしろ、取得率100%でも取得日数の少ない企業が目立つ。つまり、男性育休推進企業でさえも「とるだけ育休」が珍しくない実態が明らかになった。
特に取得日数の少なさが際立ったのは金融・保険業界で、22年度の取得率は平均97.9%と非常に高いものの、平均取得日数は、20年度は6日、22年度は11.0日だった。
その背景について、イクメンプロジェクトの委員で、ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんは、「金融・保険業界の特徴として、長時間労働があり、長期では休めない風土がまだまだあるのが実態ではないか」と言う。
対照的に取得日数の伸びが大きかったのは建設・不動産・物流業界で、平均取得日数は20年度が8日だったが、22年度は22.6日と、約2.8倍に増えた。
「19年から働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が順次施行されてきましたが、建設・物流業界では24年度から労働時間の上限規制が適用されます。この業界では今、非常に頑張って働き方改革をしている。なので、ここ数年で大きな変化が生まれたと思われます」(小室さん)
結局のところ、「本当に社内で男性育休が定着しているのかを見極めるためには『当事者が希望する期間の取得ができたのか』『とるだけ育休になっていないか』といった点で情報を精査する必要があります」(発表資料から)。
ブラックな職場の指標に
男性育休取得の実態公表の意義を、先の駒崎さんは、こう語る。
「ただ単に育休、育休と発信している企業や業界は、『とるだけ育休』になっている、ということがだんだんと見えてきた。今の学生は就活の際、育休の取得日数を見るようになってきていますので、そのような表面的な対応を繰り返していたら、学生から選ばれなくなる。男性が希望する育休をとれないような職場、イコール、ブラックな職場、ということで、採用力がどんどん落ちて淘汰されてしまう。そのような時代になってくるのでは、と思います」