「ノラの物語は多くの人に見られるべきだと感じていたので、彼女と会って話したいという衝動はずっと消えませんでした。ただ、会えてもすぐに映画の話を進めたわけではありません。彼女は若く、映画とは違ってバレエ学校では女子クラスを受講させてもらえていませんでした。デリケートな時期でもあったため、まずは彼女に対する尊敬の気持ちを伝え、友情を育んでいったんです」

 脚本に4年。物語をララに絞るため、LGBTをテーマにした映画でよく描かれる「周囲との葛藤」を描かないと決めていた。それだけに、

「他者とかかわらずに彼女の内なる葛藤をどう描くのか、それを探すのに一番苦労しました。鍵となったのはバレエ界。もっとも女性らしい、女性の極みというイメージを持たれている世界ですが、そのイメージに近づこうとしていることこそがララの葛藤なんだと気づくまでにちょっと時間がかかりました」

 悩みながらも自分らしく生きていくララ。そこにはノラだけでなく、監督自身も半分くらい投影されているという。

◎「Girl/ガール」
現役トップダンサー、ビクトール・ポルスターがララを演じる。7月5日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD「リトル・ダンサー」

 男だから、女だから〇〇してはいけない──。幼い頃から性差別を受けることは少なくない。クラシックバレエもかつては女の子の習い事だった。男の子がバレエを習いたいと言えば引かれたものだ。マッチョな男性が多い土地柄ならなおさらそうだろう。

「リトル・ダンサー」の舞台はそんな雰囲気が充満する、炭鉱不況真っ只中の英国北部の炭鉱町。11歳のビリーは炭鉱労働者の父と兄、認知症の祖母との4人暮らしだ。父はボクシングの熱烈なファンで、ビリーを近所のボクシングジムに通わせていた。そんなある日、ジムの片隅でバレエ教室が開かれることに。そもそも音楽が好きでボクシングに馴染めなかったビリーはふとしたことから優雅なバレエにすっかり魅せられ、密かにバレエの指導を受けることになるのだが……。

 男にとって強さがすべて、のように育った父や兄にしてみれば、男がバレエなんてあり得ない。だが、バレエを愛するビリーは諦めない。「自分らしく生きる」ことを貫く彼のダンスは、頑なだった父の心を打ち砕く。見る者の心もとらえて離さない。見終える頃にはすっかり勇気がチャージされているはずだ。

◎発売元・販売元:KADOKAWA
価格1500円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年7月1日号

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