AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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トランスジェンダーを主人公にした映画は身近になってきたが、ティーンエージャーが主人公となると話は別だ。
映画「Girl/ガール」は母親代わりにかいがいしく6歳の弟の世話を焼き、親戚が集まれば食事の用意を整える15歳のララが主人公。彼女はどこから見てもすてきな姉だが、実はトランスジェンダー。国内有数のバレエ学校へ試験編入が許された彼女は、血の滲むような厳しいレッスンに耐え、プロのバレリーナを目指しているが……。
脚本も手掛けたのは、ベルギー出身のルーカス・ドン監督。長編第1作となる本作でカンヌ国際映画祭では新人監督賞など3部門で受賞。アカデミー賞外国語映画賞のベルギー代表となり、ゴールデン・グローブ賞でも外国語映画賞にノミネート、各国で多くの賞に輝く注目の映画監督だ。
本作の始まりはドン監督が映画学校へ入って間もない2009年、18歳の時に読んだ新聞記事だった。
「(撮りたい映画は)これだ! と思ったんです」
載っていたのは、バレリーナを目指すノラ・モンセクレールの記事。彼女は生物学的には男性として生まれたが、自分は女性だと確信し、学校側に反対されながらも自身のセクシュアリティーを公表。バレリーナになる夢を貫く意志を持っていた。
「15歳にもかかわらず、彼女は自分で選んだ世界を生きていた。クラシックバレエは男女しかない世界観。それまで規範に合わせて生きていた18歳の僕は、レッテルをはがそうとした彼女に尊敬の念を抱きました」
ノラの姿勢はかつて、周りの評価を気にして演技や歌などを「女の子っぽい」とやめてしまったドン監督の心に刺さった。ノラに会いたいとすぐに行動を起こしたものの最初は断られ、会うまでに1年かかったと言う。