首都圏ほどではないと言いつつ、関西地方も、中学受験熱は高まりを見せている。入学偏差値と大学合格実績の差から6年間の学力の伸びを数値化したとともに、躍進する学校現場に足を運び、各校の特徴を専門家に聞いた。
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「とにかく積極的に校外へ出て、生の体験をしてもらう。本物との触れあいに力を入れています」
この春、京都大学に20人の合格者を出した大阪市の開明。躍進の背景を早坂元実校長に尋ねると、意外な答えが返ってきた。6年間の学力の伸びを数値化した表を見ても、国立難関(共学)で5.1と大きな伸びを見せている。その原動力が「生の体験」とは。どんな取り組みをしているのか。
「中学1年生を京都や奈良の観光地へ連れていき、外国からの観光客に直撃インタビューをしてもらいます。もちろん英語でですよ。面白いことに、コミュニケーションが成り立つんです。生徒は自分の英語が通用することで自信をつけます」
中2になると、和歌山県の加太湾で海洋生物を採集。宿泊先に顕微鏡などを持ち込み、解剖や観察、実験もする。ノーベル賞受賞者らの講演など、「本物との出会い」の場も設けている。
「生徒にはまず、学ぶって楽しい、と感じてほしい。関心が広がると、夢を実現するための目標が決まってくる。国公立の受験は生半可な気持ちでは続けられない。モチベーションの核となるのがリアルな経験なのです」
京大合格者20人のうち、4人は特色入試枠で入学。生徒の1割以上が推薦・AO入試で国公立大に進学するという。
関西の入試事情に詳しい「ミライノマナビ」編集長の萩原渉さんは、志望校選びのポイントについてこう語る。
「来年、中学受験をする子どもたちが大学をめざす7年後には入試制度そのものが大きく変わっています。10年後、20年後に必要な力はそれ以上に変わるはずです。従来の、教えられたことを紙の上に再現するばかりの受け身の教育では到底太刀打ちできない状況でしょう。アクティブラーニングや探究型の教育に積極的に取り組んでいることが、学校選びのひとつの指針になるのでは、と感じています」
近年、学力を伸ばしている中高一貫校について、萩原さんに聞いた。まずは、国立難関で12.2と驚異的な伸びを示している立命館中高に着目。
「スーパーサイエンスとスーパーグローバルの指定を受け、高校の指導要領の内容を超えたレベルの教育をしています。医薬系を中心に外部進学を目指すコースもあり、大学並みの実験施設を備えているのも魅力ですね」
関関同立近で14.7、国立難関8.4と躍進著しい明星中高(大阪)は、グローバル教育に加え、エッセー作成や探究型の学習、思考力を養う取り組みが盛んだ。
女子校では早慶上理で15.0の伸びを見せた甲南女子中高に勢いがある。
兵庫県姫路市の男子校、淳心学院中高は国立難関で5.7。
「阪神地区から離れたエリアで、地元の優秀な子をしっかり伸ばしてくれる印象があります」
国公立大志向の強い関西進学校のなかで、早慶上理で9.0と高い数字を出しているのが白陵中高だ。手厚い進学指導で、他の進学校に比べると首都圏の大学を狙う率が高い。関関同立近では8.0の三田学園中高も有力校の仲間入りを果たした。
「広大な敷地を持ち、文武両道でありながら、新しい時代の学びにも積極的に取り組んでいます」
(ライター・赤澤竜也)
※AERA 2019年6月10日号より抜粋