ディー君は日本だと中学1年生だが、2学年上のクラスで勉強している。一番尊敬する人を尋ねたら「一番は……やっぱりママかな」(撮影/大野洋介)
ディー君は日本だと中学1年生だが、2学年上のクラスで勉強している。一番尊敬する人を尋ねたら「一番は……やっぱりママかな」(撮影/大野洋介)
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 プログラミングの才能に秀でるディー君。孫正義育英財団から支援も受ける。彼は自閉スペクトラム症。日本の学校にはなじめなかった過去を持つ。

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「末恐ろしい子だな」

 AIの開発を手がける「GRID(グリッド)」で開発を担当する諏訪佑介さん(27)は、ディー君に会ったとき、そう思ったという。現在タイに住む12歳の日本人で「ディー」は愛称。ディー君はプログラミングを駆使して、4カ月ほどで独自のオセロゲームをほぼ完成させた。

「普通はプログラミングを学んでも、プログラミングの文字列と、実行されるプログラムがイコールだということはなかなかわからないと思うんです。それだけでなく、ディー君はプログラミングで何が作れるのか、何に応用できるのかがわかっている。アルゴリズムの知識があまりない中で、このオセロゲームを作ったことはすごい」(諏訪さん)

 実際に何人かがディー君のプログラミングしたオセロに挑戦したが、みんな勝つことができなかった。だが、こともなげにディー君は言う。

「オセロの世界大会で最年少で優勝した人のニュースを見て、オセロのオンラインゲームをやってみたんですよ。で、自分でももっといいオセロのゲームを作りたいと思った」

 2016年、ソフトバンクグループ代表の孫正義さんが私財を投じて、「高い志と異能を持つ」若者の発掘と支援のために「孫正義育英財団」を立ち上げた。ディー君はこの財団の1期生にも選ばれた。財団には8~28歳(19年2月時点)の145人が所属している。ディー君は、応募したときはまだ「単なるAIに興味のある少年」にすぎなかったが、論文や面接、プレゼンテーションなどを経て合格。合格率約9%の狭き門だった。

 その後、財団生からPython(パイソン)というAIのための汎用プログラミング言語の存在を教えてもらい、本格的に学び始めた。

 そのディー君は自閉スペクトラム症だ。興味があることには猪突猛進で突き進む。その半面、興味のないことだと、授業中でもどこかへ行ってしまうなど、集団行動は苦手。日本に住んでいたころは学校からも近所の住人からも苦情が毎日のように届いた。

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