わが夫はそれを「子どもは犬みたいなものだ」とたとえました。「犬は100回吠えて1回でもエサをもらえたら、それ以来吠え続ける。だから一度たりともエサをあげてはいけない。そうやって、言葉でなく行動で習慣化させるのだ」と。まぁワンコってかわいくて賢いですけど、我が子を犬にたとえるなんてひどくないですか……?

 子どもがグワングワン泣いても放っておく夫が、私には最初、鬼のように見えました。こんなに泣かせてまで一人寝を覚えさせる必要があるのだろうか。1時間も2時間も泣き続ける娘の息が止まってしまうんじゃないかと思って、「アメリカのしつけなんてやってられん、私は日本人だからこの子が5歳になっても10歳になっても一緒の布団で寝るんだ」と泣きながら夫に訴えた夜もありました。真剣に離婚を考えた夜もありました。

 涙のトレーニングは、1年後に終わりを迎えました。娘が2歳の誕生日を迎えるころに卒乳をしたら、私のホルモンバランスが変わったためか、娘が大泣きしていても冷静に見守ることができるようになったのです。「泣いたら抱っこ」をやめると、1カ月もしないうちに娘は一人で寝られるようになりました。夫いわく「君のエゴでトレーニングが伸びたんだ。1年も夜泣きを続けて、かわいそうな娘」とのこと。おいおいそういう言い方はないんじゃないの? とまた離婚の二文字が頭をよぎりましたが、まぁ夫の言う通りなんです。一人寝をさせると一度決めたら、その方針は貫かなければなりませんでした。私が余計な手出しをしなければ、寝かしつけトレーニングは1カ月以内に完了していたはずです。かわいそう、と一時の感情に流されて抱っこを続けてしまうと、いつまでたっても一人寝の習慣がつかず、長期的に見たらよっぽどかわいそうでした。

 日本では昔から「親子川の字」というし、集合住宅に住んでいる場合など、赤ちゃんの泣き声を長時間放置しておくのは難しいかもしれません。だから、寝かしつけトレーニング絶対おすすめ! と申したいわけではありません。でも「親が教えれば、赤ちゃんでも一人で寝つけるようになる」というのは事実です。子どもにとってはスッと寝つけるようになって楽だし、親は夜に自分たちだけの時間ができて楽。寝室のベッドで、子どもと一緒では見られないサスペンス映画を鑑賞しながら、「この時間が得られたと考えると、涙のトレーニングを続けた甲斐もあったな」と思うのです。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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