ソウルの日本大使館のそばに設置された慰安婦を象徴する少女像。集会には大学生ら若い世代が目立つ (c)朝日新聞社
ソウルの日本大使館のそばに設置された慰安婦を象徴する少女像。集会には大学生ら若い世代が目立つ (c)朝日新聞社
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 草の根の交流は進むのに、国同士の関係がこじれる日本と韓国。ソウル特派員を務めた朝日新聞編集委員の牧野愛博氏が、近年の歴史をたどり、「過去最悪の状況」に至った経緯をリポートする。

【写真】線路に転落した日本人を救おうとして犠牲になった李秀賢さんの追悼記念碑

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 初夏の陽気になった5月中旬の韓国。南東部の釜山駅からタクシーで20分ほどの「オリニ大公園」で、笑顔の女性が私を待ってくれていた。辛潤賛(シンユンチャン)さん(69)。2001年1月、JR新大久保駅で、線路に転落した日本人を救おうとして犠牲になった韓国人留学生、故李秀賢(イスヒョン)さん(享年26)のお母さんだ。

 この公園には、李さんの追悼碑がある。辛さんは亡くなった李さんに会いたくなると、この公園を訪ねる。事故から18年が経ち、今年3月には夫の李盛大(イソンデ)さん(享年80)も亡くなった。

 辛さんは李盛大さんの死去直後、韓国紙「中央日報」のインタビューを受けた。そこで、16年の大みそかに市民団体が釜山の日本総領事館前に設置した慰安婦を象徴する少女像に触れた。「森本康敬総領事(当時)がつらかろうと思うと、心が痛かった」

 これが、どれほど勇気の要る発言だったか、韓国の人々ならよく理解できるはずだ。韓国人が公の場で、慰安婦や徴用工などの歴史認識問題にからんで、日本を理解したり、支持したりする発言はタブーだからだ。

「日帝36年」と呼ばれる日本による朝鮮半島統治で被害を受けたと主張する人々への気遣いや遠慮が、こうした空気を作っている。辛さんもある意味、日本の犠牲になった息子を持つ「被害者」であり、事実、つらい日々を送ってきた背景がある。「日本を理解する十分な資格」がそこにはあるのだろう。

 辛さんに、そんな考えをぶつけると、「大勢の韓国人は日本が大好きなんですよ。韓日関係が悪くなると、そんな主張がしづらくなることは事実ですけれど」と話してくれた。

 18年、日本を訪れた韓国人の数は750万人以上。今年初めに会った50代の韓国野党国会議員は、和室で浴衣姿でくつろぐ男女の写真を私に見せてくれた。彼は「同僚の議員たちと週末、青森県の温泉に行ってきたんだよ」と言って笑った。韓国からは日本各地の地方空港への直行便が延びている。日本の魅力にとりつかれ、度々訪れる韓国人も多い。

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