アメリカと中国の「貿易戦争」が世界に影響を及ぼしている。その発端は、トランプ大統領と日本商社の「ピアノの競り」にあるという。関税引き上げによる米経済への影響とトランプ政権の今後の行方はどうなるのだろうか。
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トランプ米大統領が中国に対する「貿易戦争」で断固とした態度を取り続けるのは、実は1980年代の日本の貿易黒字に対する懸念からだった──。米紙ニューヨーク・タイムズが、伝記作家などの話として報じた。
88年、当時ビジネスマンだったトランプ氏は映画「カサブランカ」で使われたピアノをめぐる競売で、日本の収集家を代理する日本商社に競り負けた。彼にとってこの敗北は当時の日本の貿易大国ぶりが原因であり、その直後、日本からの輸入品に高い関税を課すようにとテレビ番組で訴え始めた。
この一件以来、米国が貿易赤字を抱える国への関税引き上げは、トランプ氏にとって、米国を守るための最も長く持ち続けている信条ともいえる。今は、その矛先が中国に変わっただけ、というわけだ。
日米貿易摩擦とトランプ氏の関係に詳しい米ダートマス大のジェニファー・ミラー助教授は言う。
「(通商問題は)大統領にとって、米国の国境を守るという問題の大きな部分を占めている強迫観念だ」
トランプ政権は中国から輸入されるアルミ、ソーラーパネル、靴、洗濯機などの関税を引き上げる追加の措置によって、ほぼ全ての輸入品の関税を引き上げた。中国も報復措置をとる応酬合戦に突入し、米国の消費者は混乱している。「その関税分は誰が支払うのか」と。
トランプ氏はこれまで、25%引き上げた関税のうち21%は中国が負担していると説明している。
だが米コロンビア大のエコノミスト、デービッド・ワインスタイン教授らはトランプ氏が昨年課した関税について分析し、「米消費者は、関税コストを払わされている」と結論づけた。教授らは、輸出業者が関税を反映した請求を行った場合は、中国からの輸入品の価格は20~25%上昇したと推計。米国側の輸入業者が利益でカバーすることもあるが、一部の消費者は高いコストを支払わされている。