5月1日に新天皇が即位した。理系の研究者が続いた近年の天皇には珍しく、新天皇は歴史学を専門にしている。手記やゆかりの人物などから、新天皇の歴史学者としての一面をひもといていく。
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近年の「理系天皇」と異なり、天皇陛下(59)は歴史学者だ。
昭和天皇は水中生物のヒドロゾアや粘菌、植物を研究した。退位した上皇さま(85)はハゼなど魚類分類学で論文を多数書いた。皇嗣となった秋篠宮さま(53)はニワトリなど家禽類の研究で理学博士号を取得し、ナマズなどにも詳しい。
昭和天皇は1976年の記者会見で、「ヨーロッパ中世や第一次世界大戦の戦後史など政治史に興味があったが、歴史を深く研究するといろいろ人に利用される恐れがあることなどから、生物学を選んだ」と答えている。上皇さま、秋篠宮さまとも、学習院大学では政治学科に進学したが、卒業後の研究は生物学を選んでいる。
人文・社会科学よりも自然科学のほうが政治性を帯びにくいことに加え、かつて欧州の王族や貴族に生物学・博物学の愛好者が多かったという事情もあったとみられる。なぜ新天皇は歴史を専門に選んだのか。
新天皇は登山をよくする山岳愛好家で、交通史に造詣が深い歴史学者でもある。どちらも幼少時の「道」への関心が出発点になっている。「道」に関心を持ったのは、学習院初等科低学年のころだった。英国留学を回想した手記『テムズとともに』によると、住まいの東宮御所がある赤坂御用地を散策中、「奥州街道」と書かれた標識を見つけた。「鎌倉時代の街道が御用地内を通っていたことが分かり、この時は本当に興奮した」
さらに母の美智子さま(いまの上皇后さま)とともに松尾芭蕉の「奥の細道」を読み、旅や交通への関心が深まった。手記に「外に出たくともままならない私の立場では、たとえ赤坂御用地の中を歩くにしても、道を通ることにより、今までまったく知らない世界に旅立つことができた」と書く。
江戸時代の街道や宿駅制度に興味を持ち、学習院大学文学部史学科に入学。日本の交通史に詳しい児玉幸多学長(当時)らのゼミを受講した。