映画化の話が仙波さんに持ち込まれたのは、2021年3月のことだった。
それまでも何度か、仙波さんの裏金告発について映画化するという話は持ち上がっていた。しかし、なかなか実現にはいたらなかった。
「今回、映画会社からオファーがきて、いろいろ聞きました。Winnyの話が大半ですが、裏金告発を一部でも取り込んでくれるというのはありがたいことです。当初、台本では裏金告発の警官はシラトリリョウという架空の人物だったんです。私からすれば『なんで実名出さんのか?』となりますので、そう監督に申し入れると『本当に実名でいいのですか』とびっくりされていました。その時はすでに撮影に入っていたけど、台本を書き換えたそうです」
実名であることも含め、仙波さんの裏金告発の内容はリアルに表現されている。
「ええか、ニセ領収書を書いたら私文書偽造で3カ月以上5年以下の罪になる。それを元に公文書を偽造すると1年以上10年以下の罪や。詐欺や業務上横領は10年以下。それだけの罪を犯したもんが千円のもんを万引きした人に調書をとれんのか」
仙波さん役の吉岡さんが、若い警官を悟す場面だ。
仙波さんは2008年1月20日に実名で記者会見することを決める。するとその数日前から、人や車に尾行されていることに気づく。それが愛媛県警の関係者や車両と見られ、仙波さんが苦悩、葛藤する様子も描かれている。
仙波さんが意を決して臨んだ記者会見で、
「仙波敏郎巡査部長55歳、38年間の警察生活の中で見たこと聞いたこと、そして自分の体験に基づく真実を話します。捜査費の支払いはすべて架空、捜査協力者に支払われた事実はありません。一つだけ言わせてください。人一倍強い正義感を持って警察官になった若者たちが今日もどこかで裏金づくりに加担させられている」
というセリフがある。このシーンについて仙波さんは、
「本気で映画を作っているんだなと思いましたよ。記者会見した時と一言一句同じ。吉岡さんは、私の著書なども徹底的に読み込んで演じてくださったそうで感動しました」
と振り返る。