信の戦う目的は、元々は将軍という職業になることだったが、エイ政と出会ってから、彼の「中華を統一して平和な世界を作りたい」というビジョンに共感し、自分のビジョンも変わっていく。これも起業家と同じだと言う。
「徐々に部下が増え会社が大きくなっていくと、組織をまとめるために大義が必要になってきます。大義のない会社は伸びないんです」
自分たちがやっていることの社会的意義が腑に落ちれば、フォロワーはついてきてくれる。
「信はCEOとかCOO。エイ政がオーナーなんですよね。そこが共感しあうとうまくいく。そのプロセスがすごくリアル」
キングダムには、戦国時代を彩った将軍、軍師、王や文官、宮女から庶民まで、多数のキャラクターが登場する。
「登場するキャラクターの個性が際立っており役割も違うので、この人は自分に近いという人、あるいはこうなりたいという人がどこかにいるんです」
イノベーター型として入山さんが挙げるのが桓騎(かんき)だ。
「イノベーションはアイデアだけならいいんですが、それを実行するのはとても勇気がいります。秦の将軍なのに魏の旗を掲げて韓の陣営に突撃する桓騎は、平然とそれをやってしまう。嫌なやつかもしれないがすごい、というスティーブ・ジョブズ型。王翦(おうせん)もイノベーターですね」
魏の大将軍から楚の客将になった廉頗(れんぱ)のように各国を渡り歩く将軍もいる。
「ビジネスでいうとプロ経営者ですね」(入山さん)
ビジネス書としてのキングダムを世間に広く知らしめたのは、2018年10月にあった「今、一番売れてる、ビジネス書。」キャンペーンだ。東京・山手線の五つの駅に巨大広告を出現させ、ビジネス書仕様の新カバーを着けた単行本が書店に並んだ。
このキャンペーンの仕掛け人は、The Breakthrough Company GO代表の三浦崇宏さん(35)。数々の話題のプロジェクトで知られる気鋭のPR/クリエーティブディレクターだ。自身もキングダム好きで、独立前の博報堂時代は広告業界とキングダムの世界を重ね合わせて、著名な先輩クリエーターを将軍にたとえたり、自分はまだ百人将だな、と思ったりしていたという。