価格が高騰して“富”動産になる物件がある一方で、売るに売れず、借り手もつかない“負”動産も増えている。地方の話と思われがちだが首都圏も例外ではない。
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「父が、もう少し都心に近い場所に住み替えたいと言い始めたんです。いま住んでいるマンション(ローン完済)を売って、新しいマンションに、と。でも、いくらで売れるのか調べたら買値より1400万円ほど下がっていて……」
と語る都内在住の女性(45)。父親の現在の住まいは25年前に4100万円で買った神奈川県の京王相模原線橋本駅から徒歩10分のマンションで、12階建ての3階。売ったお金で別の住まいを買うつもりだったが、2700万円で都心の物件は厳しい。
「わざわざ数千万円を追加してまで住み替えたいわけではないので、あきらめたようです。ただ、父が長生きすればするほど、相続時の売値は下がりますよね。もしかしたら買い手がつかないかもしれないんです。橋本駅から約10分という、人気面も徒歩分数も微妙な物件で、賃貸で回すのも厳しそう。売ることも貸すこともできず、そのまま私が相続すれば、固定資産税を毎年払わないといけない。今のうちになんとかしたほうがいい気がしますが、『今売れるなら、損してもさっさと売って賃貸に住めば?』とは、さすがに言いにくくて……」
東京都心で駅近の物件は価格が高騰して“富”動産になる一方、条件が悪いため「売るに売れず、借り手もつかず、このままでは空き家になるしかない」という“負”動産が増えている。この女性のように、いざ親の住まいを相続するとき困る人も激増している。地方だけでなく首都圏でも不動産の優勝劣敗、二極化が進んでいるのだ。
「人は家を買う、建てることにはとても熱心。でも、最後の最後にその家をどう処分するのかという『住まいの終活』については極めて無関心です」
と語るのは、東洋大学教授の野澤千絵さん。住宅過剰社会の現状や空き家問題を実地調査してきた、負動産問題のスペシャリストである。