

クリント・イーストウッドが久しぶりに監督と主演をこなす「運び屋」が公開中だ。作品のテーマから、日本軍の視点で描いた「硫黄島からの手紙」に込めた思いまで、軽妙かつシリアスに語った。
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麻薬の「運び屋」というと、当局の警備をかいくぐり、極度の緊張のなかでブツを運んでいると想像しがちだ。
ところが、クリント・イーストウッド(88)演じる主人公のアールは違う。筋肉隆々で武装した麻薬カルテルの危ない面々が近くにいるのに、「運搬」途中に車中で大声で歌ったり、道ばたで立ち往生している人を助けたり……。緊迫したムードでもどこかコミカルだ。
ロサンゼルスで会ったイーストウッドも全く同じだった。
「運び屋」は、「グラン・トリノ」以来、約10年ぶりに監督・主演する力のこもった作品だ。
作品のテーマについて「学ぶのに老いは関係ない、ということなんだ」と真剣に語っているそばから、「車の中に一人でいたらだれでも曲に合わせて歌ったりするよ。私なんかいつもやってる。だからあれは演技じゃないんだ」と笑わせる。
そんな「様々な小さな要素をちりばめた」という90歳のアールに、観客は引き込まれていく。家族を顧みず仕事に没頭したアールだったが、事業が破綻。すでに妻や子は彼のもとを去っている。麻薬カルテルの仕事と板挟みになりながらも、彼が家族との絆を再生できるのかどうかが映画の主題だ。
その姿は、トランプを大統領に押し上げた、もう一方のアメリカ人、「忘れられた人々」を想起させる。懸命に働いてきたのに報われない……。白人米国人の葛藤を描くものでもある。
88歳のイーストウッドの俳優や監督としての半生自体が、ハリウッド的な分かりやすい映画でなく、「もう一つの物語」を描く努力の軌跡でもあった。
「ダーティハリー」では精緻な法的手続きを無視してでも正義を行使しようとする警官を、「許されざる者」では老齢ガンマンの悲哀を描いた。