

西加奈子原作の映画「まく子」が全国公開中だ。主人公のダメな父親役を演じた俳優・草なぎ剛と原作者が、主人公の少年サトシ(山崎光)を通し、作品や自身の子ども時代について振り返る。
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草なぎ剛:作品には名言がたくさん出てきますよね。西さんは男の気持ちがよくわかっているなと思いました。僕は光一だけでなく、サトシの気持ちもすごくよくわかります。小学5年生という体が変わっていく微妙な年頃。その頃僕も自分の体の成長と変化が少し嫌でしたもん。
西加奈子:私は男も女も人間にあまり差がないと思っているんです。「まく」という行為も射精とかビールかけとか、男の人がしているのが羨ましい。「私もやりたいで」って思います。サトシの気持ちを書くにしても、私がサトシくんだったら体の変化がいややろうな、という感じ。想像でしかないんですけど、私も生理がいやでしたから。でも実際、男性器も女性器もえげつないじゃないですか。思春期の子どもだったらいややろなと思うから、そうした気持ちを想像して書いていましたね。
草なぎ:男も女も人間、差がないという言葉は刺さります。
西:私は光一が、体の変化についていけないサトシに自分のパンツを下ろして、「父ちゃんの(性器の)方が気持ち悪いよ、変だよ」というシーンがすごく好きです。あれを「変じゃないだろ」と言ったら嘘だと思うんですよね。そういうことを言う先生や大人っていますよね。「みんな変じゃないよ、みんな同じだよ」って。私は「それは嘘やん」ってどこかで思っていたんです。「みんな変や」だったら私は信じられると思ったので、小説では自分が思ったことを書きました。
草なぎ:このシーンを境にサトシは変わっていきますもんね。子どもから大人になっていく。台本を読んだ時に重要なシーンだなと思っていました。だから、実は撮影ではすごく緊張していたんです。息子に迫られるというのかな。光一はもしかしたら自分の息子を怖いと思ったかもしれないけど、父として、真剣に対峙する息子から逃げられないというか。緊張感が走っていて、いいシーンが撮れたと思います。
西:1回で撮れたんですか。
草なぎ:何回も撮りました。下半身は裸でしょ。後ろから撮ったときに(前貼りが)見えちゃって(笑)。前貼りを外したんですよ。こんなシーンの撮影は初めてでした。
西:お互い(局部を)見合ってたんですか?(笑)
草なぎ:そうですね(笑)。山崎くんと二人で見合って、「どうすればいいんだ?」という戸惑いもありましたが、父と思春期を迎えた息子の「ヘンな間」みたいなものが生まれ、それは、僕の恥ずかしい気持ちとリンクしています(笑)。いろんな意味で緊張もありましたが、いい着地ができた。僕もすごく気に入っているシーンです。そうそう、このシーンを見たら、サトシと光一のお尻の位置が一緒なんですよ。
西:そうでしたっけ?
草なぎ:そうなんです。サトシがスノコの上に立っているからなんですが、僕がすごく足が短いやつに見える。それはみなさんに言っておかなくちゃ(笑)。
西:光一がサトシにおにぎりを食べさせるシーンも、美味しそうでした。
草なぎ:炊きたての米を握ったので実際に熱かったんです。監督からはそのおにぎりを「本当に食べて」と言われましたが、あまり経験したことのない演出でした。サトシくんは8個くらい食べてましたね。育ち盛りで(笑)。父親と口をきかない息子がおにぎりを通してちょっと心を許す。その空気感が出ていましたよね。ところで、コズエは町の人たちにある奇跡をまきましたが、西さんは自分が「まく」としたら何をまきたいですか?
西:私は正直な気持ちですかね。小説はフィクションだから嘘なんですけど、嘘はつかんようにしよというか、無理せんとことか、そんな感じです。草なぎさんは?
草なぎ:僕は西さんとかぶるかもしれないんですけど、気持ちですね。伝わる気持ちというか。いろんな自分、新しい自分をまいていきたい。そうしたら、いろんな役もできそうだから(笑)。
(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2019年3月18日号より抜粋