昼すぎにはひと仕事終えた作業員たちが大型休憩所にある食堂で昼食をとっていた。どの顔もほっとした表情だったのは、装備を外して緊張感から解放されたからだろう。東電によれば、昨年11月から構内の96%のエリアが防護服の着用なしで作業ができるほど放射線量は落ち着いたという。

 廃炉は静かに淡々と進んでいるように見える。だが、道のりは遠い。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しをはじめ、先例のない困難な作業を前に、待ち受けるのはいばらの道だ。

「近々の課題です」と、案内役の東電広報室リスクコミュニケーターの菅野定信さんが強調したのが、3号機の最上階にあるプールからの核燃料の取り出しだ。建屋最上部にあるプールには566体が保管されている。メルトダウンを起こした1~3号機で初めて、3月下旬から取り出しを始めるという。

 だが本来、この作業は昨年11月に開始するはずだった。ところが昨年3月に試験を始めたところ機器の電圧設定の誤りや、ケーブルに不良品があるなど初歩的なミスが続き、延期となっていた。今回は大丈夫なのか。

「不具合は検証してきました」(菅野さん)

 いま関係者を最も悩ませているのが、原子炉を冷やすのに使った汚染水の処理だ。

 バスで敷地内を巡ると、汚染水が入ったタンクがぎっしりと並ぶ。かつて一帯は「野鳥の森」だったが、今や「タンクの森」となった。「森」にはタンクが約940基あり、総量は約112万トンに及ぶ。そして今も毎日100トン近い汚染水が発生する。その汚染水から、浄化装置「ALPS(アルプス)」で放射性物質を除去するが、トリチウムなどが入った「処理水」が増えていく。20年末までに137万トン分のタンク増設計画はあるが、その後に置ける余裕は30万トンを切る。最終処分の方法も決まっていない。

 今なお、こうした一つひとつの事実が驚きだ。改めて廃炉という途方もなく長い道を思う。

 そして間もなく、原発事故があった平成が終わる。安倍政権は再稼働を進め、次の時代でも原発に頼ろうとしている。人間のおごりと過信によって、取り返しのつかない事故を起こしたことを忘れたかのように。

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年3月18日号より抜粋

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