自らも社会との接触を完全に絶った経験があるアーティストが、 ひきこもり当事者の部屋の光景を集めた写真集を出版する。心の傷があふれている。
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アーティストの渡辺篤さん(40)の元に送られてきた、あるひきこもり当事者の部屋。写真を撮った本人から、現在の境遇や心情についての説明はなかった。それでも少しだけ開けられたカーテンの様子は、見る者に何かを訴えかける。渡辺さんは「外から入って来られたくはないが、自分はカーテンの隙間から外を垣間見たい。社会とのつながりをすべて遮断してしまいたくはないという思いがあるのでは」と推測する。
閉ざされた暗い部屋に万年床、ごみや雑誌が散らばる中で、テレビやパソコンの画面だけが光を放つ──。ひきこもりの部屋というと、こうしたステレオタイプなイメージを抱く人も少なくない。だが、ひきこもりの当事者が部屋を「自撮り」した写真集を見ると、実に多彩だ。
渡辺さんは昨年、「アイムヒア(私はここにいる)」と題したプロジェクトを立ち上げ、当事者が撮影した部屋の写真を募集。年末までの3カ月間で、約40人から160枚あまりが寄せられた。
ある女性(22)の部屋には、散らかった中にも花やパッチワーク、絵が飾られ、彼女が自分なりの美意識を持つ人であることがわかる。写真に添えられた文章によると、発達障害で仕事がうまくいかずに何度もひきこもりを繰り返しているという。