姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
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(c)朝日新聞社
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 衆院予算委員会の質疑応答が始まりました。そこで大きな焦点となっているのが、「毎月勤労統計」をはじめとする統計不正問題です。

この問題では、厚生労働省が付託した外部有識者による特別監察委員会の中間報告で「第三者性」への疑念も生じました。ヒアリングでは官房長と数人の厚労省幹部数人が立ち会って質問までしていたにもかかわらず、これを「第三者」による調査として報告していたのですから、再検証になるのは当然のことです。事実解明には不十分なのに、中間報告書には「隠蔽する意図があるとまでは認められなかった」と繰り返されていました。

 経済用語に「合成の誤謬(ごびゅう)」があります。これはミクロのレベルではまったく問題がなかったけど、それが総量化された時に悪い結果になってしまいました、ということなのですが、この概念で考えていけば組織的に誰かに懲罰を与えることや責任を負わせることもせずに済みます。トカゲの尻尾切りのようなことも可能になるのです。

 そもそも、こういう問題が起きた時に当該官庁が「有識者」に委託すること自体がおかしなことです。これは明らかに、お手盛りという次元を超えた省庁内部の出来レースであるにもかかわらず、厚生労働省にその自覚すらないという大変な病理が巣くっていると言えるでしょう。不祥事が起きるとそれを是正するためと称して官僚が自分たちに都合のいい組織に作り替えていく。そんなことを繰り返さないためにも、この問題を切開できる第三者機関が必要です。

 独立行政機関の一つに人事院があります。人事院は国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる機関です。国家公務員法及び国家公務員倫理法に基づき、国家公務員倫理審査会が設置されているように、人事院にもっと強力な権限を持たせ、第三者機関的な役割を担わせるというのも一つの手立てでしょう。

 統計不正を防ぐためにも、第三者機関としての包括的な統計局を将来的に作る必要があります。そのためにも今後は、「組織の改編」ということも議題に載せなければならないでしょう。

AERA 2019年2月18日号