京急電鉄の駅名変更(AERA 2019年2月11日号より)
京急電鉄の駅名変更(AERA 2019年2月11日号より)
東京南部と三浦半島を結び、主に海岸沿いを走る京急線。産業道路駅は大師橋駅に生まれ変わる(撮影/編集部・小柳暁子)
東京南部と三浦半島を結び、主に海岸沿いを走る京急線。産業道路駅は大師橋駅に生まれ変わる(撮影/編集部・小柳暁子)
山手線新駅の公募では「港中央」という駅名を応募したという栗原叶君。今後の京急について聞いたところ、「速くてかっこいい、前と変わらない京急がいい」(撮影/編集部・小柳暁子)
<br />
山手線新駅の公募では「港中央」という駅名を応募したという栗原叶君。今後の京急について聞いたところ、「速くてかっこいい、前と変わらない京急がいい」(撮影/編集部・小柳暁子)

 住民や乗客の猛反発を呼んだ「高輪ゲートウェイ駅」。駅名にカタカナが付くのは、JR山手線約100年の歴史で初めてだ。そんな中、京急電鉄の新駅名は「非キラキラ」が評価されている。

【写真】東京南部と三浦半島を結び、主に海岸沿いを走る京急線

*  *  *

「京急、よく踏みとどまったな」

 1月25日、京急電鉄が発表した4駅の新駅名を見て、沿線の津久井浜生まれ、上大岡育ちの50代女性はそう感じた。

 産業道路駅の地下化や昨年2月の創立120周年をきっかけに、京急は昨年9月から沿線住民の小中学生を対象に駅名案を公募していた。変更を検討する駅の例として「読み方等が難しくお客さまにご不便をおかけしている駅」が挙げられていたため、「雑色(ぞうしき)、追浜(おっぱま)がカタカナのキラキラネームになるのでは?」と、大人の京急ファンを不安のどん底に陥れていた。

 結果は、産業道路駅が大師橋駅、花月園前駅が花月総持寺駅、仲木戸駅が京急東神奈川駅、新逗子駅が逗子・葉山駅に2020年3月から変更になるが、一般に難読駅名と言われている駅名の変更はなかった。

 京急広報部の菊池哲也課長補佐はこう説明する。

「あくまで沿線の活性化が主眼。読み方が難しいと言われる駅名、というのも挙げさせていただいたが、駅名を読みやすくしたからといって活性化するわけではないと判断しました。近くの地名やお寺の名称を入れ、お越しいただくときの利便性などを重視して決めています」

 京急線や難読駅名に関する問題でクイズ番組「99人の壁」(フジテレビ系)に出演して人気の栗原叶君(10)は「難読駅」が残ったことを喜ぶ。

「雑色駅は開業した当時の雑色村の名前。難読駅名にはちゃんと由来もあるし、難しいからという理由だけで変えるのはよくない。ずっと昔からあるのを駅名として採用してますから」

 大師橋駅に変わる産業道路駅の近隣で話を聞いた。「この辺は川崎大師が有名だからいい」と評価する声の一方で、「味の鶴岡産業道路店」の小玉修店長(69)はこう話す。

「大師線の駅名で大師がつくのはひとつだけでいいんじゃないかな。遠くから川崎大師に来る人が間違ってしまうかもしれないよね。産業道路は昔からある名前だから地元の人はなじみ深い。なくなるのは寂しいね」

「生まれも育ちもこの辺り」という68歳の男性に仲木戸駅前で話を聞いた。

「仲木戸の名称には愛着があるから、なくなるのは寂しい。でも時代の流れかな。京急はよく踏み切ったな、頑張れ!という気持ち」

 前出の菊池課長補佐は言う。

「当社は120年という歴史の中で、施設を新しくつくるのではなく、川崎大師などもともと町があるところを線路でつないできた会社。地域のみなさまと歩んできた歴史があるので、結果的にこういう形になったと思います」

 一方、地元の受け止めとは別に、新駅名に異議を唱える人もいる。横浜地名研究会会長の櫻井澄夫さんはこう警鐘を鳴らす。

「旧浦和市近辺のJRの駅名が六つも『○○浦和』になり混乱を招いている。今回、京急が仲木戸の駅名を変えることで神奈川新町・京急東神奈川・神奈川と『神奈川』が3駅続くことになります」

 無秩序な駅名の原因の一つは、国の地名政策の不在という。米国では政府の地名委員会、中国では省や市の地名委員会が地名の管理をしているが、日本では「政府や自治体が地名を一体的に管理していないため、地名は市町村が、駅名は鉄道会社がそれぞれに決めてきました」(櫻井さん)

 仲木戸駅はJRの東神奈川駅と隣接し乗り換えは至便だが、認知度が低かった。東神奈川駅はJR横浜線の起点で、沿線には日産スタジアムなどがあり遠方からの利用客も多い。「仲木戸」は江戸時代に由来する呼称だが、普段京急を利用しない乗客への利便性を考慮したという。(編集部・小柳暁子)

※「猛反発生んだ『高輪ゲートウェイ』 駅名で見習うべきはJR西?」へつづく

AERA 2019年2月11日号より抜粋