


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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子どもの親権を巡る社会派ドラマかと思ったら、終盤は心臓バクバクのサスペンススリラーに。そんな一筋縄ではいかない映画「ジュリアン」の脚本・監督をしたのは、舞台俳優でもあるグザヴィエ・ルグランだ。
冒頭から始まる離婚調停。幼い息子ジュリアンの単独親権を求める妻ミリアムは、家庭内暴力を働いてきた夫アントワーヌと対立する。読み上げられたジュリアンの陳述書にも、アントワーヌとの面会を明確に拒否する気持ちが綴られていた。ところが、裁判所は共同親権を決定。父親は息子との面会を許されることになり、ジュリアンの恐怖が始まる……。
なぜドメスティックバイオレンスをテーマに映画を撮ろうと思ったのか。ルグラン監督は、「もともと悲劇に興味があった」と言う。
「『現代の悲劇とは何か』と考えていた時にル・モンド紙の『3日に1人、ドメスティックバイオレンスで女性が亡くなっている』という記事を読んだんです。こんな世界で生きていたくない、何かしなくては、とこの問題をテーマに映画を作ろうと思いました。家庭内暴力は現代の問題として理解されていない部分が多いんです」
構想したのは10年前。俳優をしながらまず2012年に短編「すべてを失う前に」を制作。長編デビュー作となった本作は続編といえる内容になっている。ドキュメンタリーではなく、フィクションで見せることにこだわったのは、
「フィクションならより心に訴えると思ったこと、スリラーというジャンルがあるとしたらその側面も出したかった。恐怖という人間のダークな部分も表現したかったんです」
その言葉通り、次第に凶暴性を帯びていく熊のような大男アントワーヌと、その父親から母親を必死に守ろうとするいたいけなジュリアンから目が離せない。真夜中に突然やってくる戦慄のクライマックスは、ジュリアンの恐怖が見る者に伝播。体が硬直するほどの緊張感を味わうことになる。そこには、
「映画を見る人に、DVの被害に遭っている人への理解を深めてもらいたい」
と言うルグラン監督の思いが詰まっている。