各企業は以前、自社内にデータセンターを持っていることが多かったが、いまはネットを介したクラウド上にソフトやデータを置く動きが急速に進んでいる。これにいち早く目をつけたベゾスは06年にAWSを設立。AWSはいま、世界のクラウド市場で5割のシェアを持つ圧倒的な存在だ。

 11月、米ラスベガスで開かれたAWSの展示会には、1社単独のイベントにもかかわらず、5万人超の参加者が集まる異例の規模だった。

 AWSはここで、急成長が確実視される機械学習などのAIをクラウド上で企業が手軽に使えるサービスを次々と発表した。AWSのCEOアンディ・ジャシーは、今後の戦略を尋ねた私に対し、

「この分野にわれわれが投資しすぎだという人もいるが、そうは思わない。この分野は巨大になる」

 と断言。AI市場をも根こそぎ獲得しにいこうとする強い自信をあらわにした。

 AWSのクラウド事業は、企業が使用量に応じて代金を支払う仕組みだ。業績が良くない企業からの支払いが少なくなっても、業績の良い企業は必ずある。経済が成長する限り、それに応じてAWSの売り上げもアップする。例えば、ネット通販など個人消費者向けのビジネスが景気に左右されても、AWSの企業向けビジネスからは安定的に営業利益をあげられる──という重層的な構造になっていることが、アップルにはないアマゾンの強みなのだ。

 死角はないのか。

 実はその強靱さこそが、アマゾンにとっての弱みになりつつある。米国内での格差批判だ。

 その急先鋒は、16年の米大統領選で、格差批判を通じて旋風を巻き起こした上院議員のバーニー・サンダースだ。サンダースは18年、アマゾンがネット通販事業で、人々を倉庫で貧困水準の低賃金で雇い、高収益を上げている──などと厳しく批判し、賃上げを要求してきた。

 9月にアマゾンが時価総額1兆ドル企業となった翌日、サンダースは米議会内で私にこう語った。

「自分の会社が爆発的にうまくいっているベゾスは、この国の労働者に対して果たせる深い役割がある。『アマゾンで働く一人ひとりが、生活できる水準の賃金を得るようにする』と、彼に言ってほしい」

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