彼に魅了される理由は人それぞれだが、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫もその才能に陥落した一人である。各界の著名人3人に、天才・神田松之丞の魅力を聞いた。
* * *
スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー(70)が、神田松之丞に魅了されたきっかけは、友人に誘われた独演会だった。
「3年前に行った天保水滸伝。聞き惚れましたねえ」(鈴木さん)
笹川繁蔵と飯岡助五郎、二人の侠客を巡る物語を、「相撲の啖呵」「平手の破門~鹿島の棒祭り」「平手造酒の最期」「三浦屋孫次郎の義侠」の順に読んだ。
「起承転結の転にあたる3席目が盛り上がり、すでに結のような気分に陥った。4席目をどうするのか心配していたら、見事に納めたんです」
圧倒され、興奮がなかなかさめなかった。当時の松之丞は、まだそれほど脚光を浴びているわけではなかった。
「観客もよくて、老若男女が入りまじり、講談をちゃんと聞いている。その中の一人になれたのがうれしかった」
以降、チケットが取れるごとに通うようになった。子どもの頃は浪曲の広沢虎造を子守歌代わりに聞いて育ち、いつも身近に落語や講談、浪曲があった。たまに好きな噺家が出ると、「おっかけをする」。
そんな鈴木さんに、彼のどこがすごいか、尋ねた。
「聞く人の集中力を切らせない。つまり、彼自身が緊張の糸を切らしていない」
聞いているほうも疲れる。やるほうは間違いなくそうだろう。
「彼の高座を聞くときは、他人ごとではないんです。野球ではぼくは中日ドラゴンズのファンで、勝ったらうれしくて負けたら不機嫌になる。それと同じで、彼の調子がよいとうれしくて、悪いと不機嫌になりますね」
人気が広がってから、高座の客層が少し変わった。これまでと違い、落語や講談をよく知らない人も増えたのか。壇上の松之丞の戸惑いを、鈴木さんは我がこととして捉えてしまう。
「そんなところで笑うな!聞け!と観客に苛立ったりして(笑)。彼にほとんど憑依して、一喜一憂しています」
快進撃を続ける松之丞だが、鈴木さんは懸念もある。