「最初の印象が素晴らしすぎて、もしも『今が旬だったらどうしよう』『年を取ってつまらなくなったらどうしよう』と心配で」

 いずれはなる真打に、なってほしくない気持ちがある。

「長年一緒に仕事をしていますが、宮崎駿のよさは、決して真打にならないところ。世界の巨匠なのにいつもチャレンジャーとして、いまも新作を作っている。だから、お客さんも一緒に応援してくれるでしょう。松之丞さんにも常にチャレンジャーでいてほしいんだ」

 この1年は、高座で試行錯誤する松之丞の姿を見守ってきた。

「何かをつかみ始めているし、その成長を見ているのが楽しい。いまは若くて体力もあるけど、馬力だけではできない日が来るのが楽しみですよね。まだまだ先は長い。果てしなく成長していってほしい」

 年齢ごとに趣の違う高座を聞かせてくれると信じている。

 本誌連載でおなじみ、コラムニストのジェーン・スーさん(45)が、その魅力に陥落したのは、2度目に聞いた高座だった。かけたのは徳川天一坊の「天一坊生い立ち」。

「講談の経験値がほぼなかったので、魅了されるには時間がかかると思っていたんですが、すぐに引き込まれました」(スーさん)

 講談のハードルが下がったというより、そのハードルを「やすやすと彼の側から越えてきた」。時代背景や人間関係を説明するあんばいが完璧だった。
「お話の筋や登場人物をある程度知らないと、講談を楽しむことはできないと思っていたけど、松之丞さんの講談は違った」

 数回食事に行った印象は、「気遣いの細かい人」。同じラジオパーソナリティーとしては、少しだけ嫉妬めいた感情も抱く。

「悪態をついていてもどこか愛嬌がある。危険運転をしているようで、決して人を傷つけない。まさに話芸ですよね。本業が講談とはっきりしていて、強い使命感を持っているからでしょう」

 文芸評論家の杉江松恋さん(50)は、『絶滅危惧職、講談師を生きる』(新潮社)で松之丞の聞き手を務めた。杉江さんの衝撃は、「成金」寄席で訪れた。演目は新作の「トメ」。松之丞は爆笑をさらっていた。

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