AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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台湾を代表する巨匠、ホウ・シャオシェンとエドワード・ヤン。この2人の遺伝子を継ぐ女性監督と聞けば、映画ファンならいやが上にも期待が膨らむことだろう。台湾NEXT BLOOD──。そう評されるのは、デビュー作「台北暮色(たいぺいぼしょく)」が台北映画祭で脚本賞を含む四つの賞を受賞したホアン・シー監督だ。
「最初は正直ビックリしました。『へえ、どうして、みんなそういうふうに言うの』って。彼らと一緒に名前を並べること自体、恐れ多いことです」
幼い頃から映画監督を志すが、台湾の巨匠たちの熱心なファンではなかったという。とはいえ、アメリカで映画を学んだあとも本作の制作総指揮を務めたホウ・シャオシェンの現場に携わってきた。撮影は、彼の後期の作品を多く手掛けたヤオ・ホンイーが担当。暮れなずむ台北の空や雨の日の水たまり、都会のネオンの光と影といった映像からも、そのイズムはしっかりと受け継がれているのがわかる。
「都会で暮らしていると、何もかもがハイスピードです。人と人の付き合いは会った瞬間、すべてを知ってしまうことはありえない。でも今の人はそれを求めている時がある。知り合いになってから少しずつ理解していけば、人間と人間の関係が築かれていくはず。だから人物を描くときに少しずつ剥いで見せるようにしました。なので、この映画は玉ねぎのようなものです」
そんな彼女をホウ・シャオシェンはこう評価する。「彼女の資質は自分よりもエドワード・ヤンに近い。台北の現在の姿を描けたのは、ヤンの『台北ストーリー』以来だ」と。
確かに「台北暮色」には、今の台北を生きる若者たちが、克明に映し出されている。そこにあるのは、高度経済成長期を終えた暮色の街<台北>。どこか淡々と日常を過ごす彼らの姿を、高度経済成長期を舞台にした「台北ストーリー」の夜な夜なクラブやカラオケに繰り出すような若者と同列には、できない。それでも都会を生きる若者たちは、どの時代でも「空虚」や「孤独」を抱えて生きている。