内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数
内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数
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2025年の万博開催地決定後のレセプション会場でキティと写真に納まる、(左から)世耕弘成経済産業相、大阪市の吉村洋文市長、大阪府の松井一郎知事=11月23日、パリ (c)朝日新聞社
2025年の万博開催地決定後のレセプション会場でキティと写真に納まる、(左から)世耕弘成経済産業相、大阪市の吉村洋文市長、大阪府の松井一郎知事=11月23日、パリ (c)朝日新聞社

 哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、倫理的視点からアプローチします。

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 大阪万博開催が決まってから取材が続いている。「万博開催ばんざい」一色にメディアが埋め尽くされる中で、「万博に異議あり」を公言する人がなかなかみつけにくいのだろう。確かに新聞もテレビも、広告出稿者のほとんどは万博のオフィシャルサポーターである。そのような「国民的行事」を批判するのは、メディアで飯を食っている方々にとっては職業的自殺に等しいのかもしれない。仕方なく私のようにできるだけ仕事を減らしたいと思っている捨て鉢な人間のところに、コメント発注が集まることになるのであろう。

 東京五輪招致の時もそうだった。「僕の他に『五輪反対』とコメントする人はいないの?」と訊いたら、「あとは平川克美さんと小田嶋隆さんと想田和弘さんくらいです」というお答えを頂いた。

 それでも大阪万博にはいくつか異議があるので箇条書きにしておく。

(1)発信するメッセージがないこと。国力が急上昇している国が「うちの国の勢いを見てくれ」と国際社会にアピールするというのがこれまでの万博の趣向である。上海もアスタナ(カザフスタン)もそうだったし、70年の大阪もそうだった。再来年開催のドバイ万博もそういうものになるだろう。だが、今度の大阪はそうではない。「このところぱっとしないので、金が要るんです」というのがほぼ唯一のメッセージである。そんな貧相なメッセージしか発信しない万博に誰が惹きつけられるだろう。

(2)万博誘致を言い出したのは堺屋太一氏である。維新の首長たちがこれに乗った。しかし、氏がその2年前に提案した「道頓堀プール」の顛末を忘れられては困る。「東京五輪より大きな経済効果が出る」と断言していたこの事業の失敗について、私は当事者の誰一人から真摯な反省の弁を聞いた覚えがない。

(3)万博開催に歓喜しているのはアメリカのカジノ会社である。カジノ開設予定地の夢洲のインフラ整備にたっぷり税金を投じてくれるというありがたい話である。「コストの外部化」のお手本のような事例である。

 その他、地震や津波災害への脆弱性など問題点は無数にあるが、紙数が尽きた。

※AERA 2018年12月10日号