三島由紀夫賞・芥川賞作家の村田沙耶香さんがAERAに登場。自身の「書き方の変化」について、話を聞いた。
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「こそそめスープ」だと思っていたそうだ。他の人が「コンソメスープ」と呼んでいるのは知っていたが、本格的なコンソメスープだけが「こそそめスープ」と称されるのだと思い込んでいた。それも大学生になるまで。
「脳の勘違いが私は好きなんだろうなと思うのですが、こういう勘違いをしている出来事が好きなんです」
2年前に『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。この8月に、受賞後初となる『地球星人』が出版されたが、それまでにも、10人産んだら1人殺せる世界を舞台にした『殺人出産』や、人工授精での出産が当たり前となった『消滅世界』など、常に衝撃的な作品を描いてきた。目の前で「こそそめスープ」の話をふんわり笑いながら話す人物と、小説の世界は何だか一致しない。
そんな村田さんの人となりが、10月に出版されたエッセー集『となりの脳世界』(朝日新聞出版)を読むと、少し見えてくる。自分の年齢をいつも忘れてしまったり、「1億」という数字を1円玉の量で理解しようとしたり、電車の窓の外に架空の「忍者」を走らせたりと、想像力豊かで、勘違いの多い村田さんが詰まった一冊。
「小説はシリアス、エッセーはユーモラス、と思っていたんですが、最近、小説もユーモアを意識して書くようになりました。笑うということで、パッと力が抜け、発見できることがあるような気がして」
書くことが人生で一番大事だと言う。最近、コンビニのバイトもやめた。芥川賞受賞後も続けていた大好きなバイトだったが、海外からも講演の依頼が来たりする今、体力的、時間的に厳しくなってきたからだ。
「でもちょっと寂しくて。やめてからもしばらくの間LINEのグループから抜けられず、『今日から肉まん始まるよ』とかの業務連絡をじっと見ていました」
(編集部・大川恵実)
※AERA 2018年12月3日号