近ごろ日本でも普及してきたキャッシュレス決済。便利ではあるが、その裏で個人情報が収集されているという事実も知っておきたい。
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まるで部屋の壁に隠しカメラがあって、私を監視しているみたいです──筆者の仕事仲間の女性ライターが口にした。本当にカメラが仕込んであったわけではなく比喩だが、それぐらい不安だったようだ。この女性が仕事で必要な資料を求めて、ネット通販サイトで書籍を検索した。それからというもの、
「SNSやニュースサイトなどを見ているときに、その本や関連書籍の広告が、いつも表示されるようになってしまいました」
旅行を考えてネットで情報を検索したところ、しばらくの間、いろいろなサイトで温泉宿の広告ばかり表示されるようになってしまったこともあるという。
まるで行動や思考を監視されているような気持ち悪さを感じて仕方がないそうだ。どんな仕組みになっているのだろうか。
これは「行動ターゲティング広告」と呼ばれるものだ。「追跡型広告」ともいわれる。たとえばあるサイトを訪問した場合、クッキーと呼ばれる識別符号が、パソコンやスマートフォン(スマホ)に書き込まれる。新たに訪問したサイトでは、このクッキーから閲覧履歴を読み取ることで、関連する広告を表示させるのだ。
興味を持っていることがあらかじめわかっている広告を表示させるのだから、効率的だ。
リアル店舗でも同じだ。最近多くの店が、買い物時にポイントカードや自社製スマホアプリの提示を求めるようになった。あまりに毎回聞かれるので、しつこいと感じるくらいだろう。
「ポイント還元でお得ですよ」という親切心からでは、もちろんない。顧客を囲い込むのと同時に、年齢・性別・職業などの属性と購買動向をひも付けて記録して、自社のマーケティングに役立てる狙いだ。小売店での買い物であれば、購入データは即座に本社に送られ、分析に回されることになるだろう。
データの販売が目的に含まれるケースもある。膨大な発行枚数を誇るポイントカード。会員から収集した文字通りのビッグデータを、発行会社は提携先に販売している。規約で、会員が「提携先に個人情報を提供することに同意します」といった趣旨の項目がある。顧客情報の販売が発行会社のビジネスモデルの一部とされている。