実際に今回の中間選挙でも、民主党が勝てば、大統領の弾劾にやっきになり、好調な経済は損なわれるなどと、あおりにあおった。犯罪を繰り返すような移民があふれ、米国は崩壊するといった暴言の数々も含め、なりふり構わぬ姿勢で、民主党を敵視する言動を繰り返した。一方を徹底的に切り捨て、一方に集中的に肩入れするやり方は、現政権の国内外の政策にも共通するトランプ大統領の特徴。それが政権発足以降、約40%の支持率を保つ成功例になっているからやっかいだ。
「切り捨てる所は切り捨てるというのは、実は普通の人には、なかなかできない。トランプ大統領にはできてしまう。そこが彼の一番の強みです。これは世界中のリーダーのモラルに悪影響を及ぼします。本当に、これでいいのか、恐ろしくなります」(中林教授)
分断社会が生み出した大統領だけに、分断を助長する戦略で求心力を生み出してきたトランプ大統領。就任後初の国民の審判となった中間選挙で、自身がてこ入れをした複数の選挙区が逆転勝利となり、これまで主流派との対立もあった共和党を事実上のトランプ党に変えた。民主党が下院多数党という責任を持ったことで、さらに宿敵を攻撃しやすくなった。まさに中間選挙の結果はトランプ大統領個人にとり、20年の大統領選再選に向けたテストマッチとしては、多くの成功例を得られた「大成功」の選挙だったのだ。
ただ、分断戦略はトランプ大統領の予測を超えて、切り捨てられた、もう一方を立ち上がらせる原動力にもなった。トランプ政権が発足してからの2年間、やられっぱなしだった民主党は、常に「バラバラ」「顔なし」との批判を受けてきた。それが分断戦略の副産物として、反トランプを接着剤とする新たな大きな動きを生み出してしまった。前出の海野教授が解説する。
「民主党は今回、光が見えたと思っている。投票率も伸びて、女性候補が史上最多の当選を果たした。女性、若者、ヒスパニック系。そうした人たちが連合軍を組むことで、トランプ大統領への対立軸を民主党内につくった」
これは先の大統領選挙で民主党候補のヒラリー・クリントン氏がやろうとしたことだが、自身の不人気などもあり実現できなかった。今回の中間選挙では、下院で女性議員が少なくとも100人に迫る数の当選を決め、最多記録となった。初のイスラム系、あるいは先住民出身といった女性の下院議員も誕生している。投票率も47~48%周辺で推計されており、通常の中間選挙の平均が40%前後であることを考えると、大きな伸びとなった。両党ともに有権者への投票を呼びかけるキャンペーンを展開したほか、大学でも教授らが講義中に「かつてない重要な選挙」として学生らに投票を訴えた。