●極右か極左に火をつけ、投票所に動員した方が勝つ
前回の大統領選で、白人労働者や退役軍人らが立ち上がりトランプ票を押し上げたように、今回は政治マイノリティーの人たちがボトムアップで候補に手を挙げたり、選挙活動を支えたりした。大統領選で共和党に起きたことが中間選挙で民主党にも起きたことは、「トランプ大統領にとって警戒材料になる」と海野教授。これまでは民主、共和ともに、中間層や無党派からの得票に力を入れてきた選挙運動が、分断社会を背景に、より右派か左派といった両サイドに偏った人たちを取り込む選挙戦略になっているという。「極右か極左に火をつけ、投票所に動員させた方が勝つ。この傾向は20年の大統領選に向けて、より強くなると思う」と、海野教授は分析している。
●米国内の関心をそらすカードに日本が使われるか
今後の政権運営はどうなるのだろうか。
トランプ大統領は7日午前、ホワイトハウスで中間選挙後初の記者会見をし、党派を超えた協力や、分断社会の団結を訴えた。その上で、民主党が下院で弾劾発議をしたら上院で民主党の不正を暴くと強調。自身の脱税疑惑などをただす記者らを「無礼」「フェイクニュース」と批判し、全米にテレビ中継された記者会見をトランプ劇場に仕立て上げた。分断戦略は変わらないのだ。自身の主義主張を押し通すため、ねじれ議会を避け、すでに連発している大統領令をさらに頻発させるとみられる。中間選挙が終わったことで、わずか2年後にせまった大統領選への本戦ムードに突入したトランプ大統領だけに、自身の支持者に訴える政策は、これまで以上に強引になる可能性がある。7日には、中間選挙後にもロシア疑惑の捜査に関する最終報告書を出す可能性があるマラー特別検察官を任命した司法省でトップを務めてきたセッションズ長官をさっそく解任した。
7日の記者会見では、自動車の対日貿易の不均衡をとりあげ、「(安倍)晋三(首相)は友人だが、日本は米国を公正に扱っていない。米国の車を買わない」などと、改めて強い不満を示した。中林教授が強調する。
「トランプ大統領は内政で行き詰まると、外交、安保、通商で驚くことをやり関心をそらせるカードをよく使う。スポーツのタイムアウトと一緒です。民主党が下院で多数政党となれば、そのカードを使う機会も増える可能性がある。たまたま、そのタイミングで日本が米国と通商交渉をしていたとしましょう。その時に、驚くような厳しいことを突きつけ、米国内の関心をそらすカードに日本が使われることは十分にあると思います」
(編集部・山本大輔)
※AERA 2018年11月19日号