※写真はイメージです
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 日本でも実践されるようになった、海外発の認知症ケア「ユマニチュード」。そんなユマニチュード」と並び海外発の認知症ケアとして知られるのが英国発祥のパーソン・センタード・ケア(Person Centered Care、以下PCC)だ。ユマニチュードが「技法」であるのに対し、PCCはケアの基本となる「考え方」であり、2001年からは同国の介護サービスの「国家基準」になっている。来日したPCCの第一人者、ヒューゴ・デ・ウァール博士に聞いた。

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 かつて英国でも「認知症=何もわからなくなって、困った行動をする」と思われていましたが、「認知症」という診断名は同じでも症状は一人一人違います。日によっても変化します。なぜなら、性格や人生経験、健康状態などさまざまな要素が絡み合っているからです。ある人に有効なケアが別の人にはまったく効果がないのは当然なのです。そこで「認知症患者」としてではなく、一人の人間として尊重し、その人の視点や立場に立ったケアをしようというPCCの考え方が生まれました。

 PCCではケアする側は優秀な「探偵」でなければなりません。あるおじいさんが午前2時に起き出してしまうのは、狂ったわけでも、体の不調のせいでもなく、実は昔、早起きの郵便配達員だったからかもしれません。ケアする人には情報収集力や想像力、予測不能なことを「楽しめる」能力が必要です。

 私がいた施設では1日のスケジュールも自由でした。朝7時に無理にでも起こさないと食事の時間がずれて困るというのは「介護する側の都合」であり、患者の視点ではありません。遅い時間でも気分よく食べたほうが、本人も落ち着くし、介護する側も楽。そんな臨機応変な対応ができる体制を作ろうというのがPCCの発想です。

 そんなケアにはコストがかかり非効率だと思われるかもしれません。しかし従来型のケアをしていると、患者の状態はより悪化し、投薬も増えるのでかえって高コストになります。PCCで患者が安心することで症状が改善すれば、結果的に介護コストの削減にもつながるのです。

(構成/編集部・石臥薫子)

AERA 2018年11月12日号