するとM検事は、
「自らステージをあげるってことですね」
「(事件の)主役になるってことですね」
と言い、3回机をたたき、自白を強要している様子だった。
渡辺氏は公判で、
「何を言っても信じてもらえない絶望感から、この世の全てが敵のような気持ちになりました。過敏性腸症候群による痛みにより自宅で気を失い、栄養失調、摂食障害、睡眠障害、適応障害などを併発し、食べられなくなり、眠れなくなり、点滴が必要なほど体力が低下しました」
と厳しい取り調べによって体調を崩したと批判した。
渡辺氏のように自ら「可視化」したものが重要な証拠になったのが、旧民主党時代の小沢一郎氏の資金管理団体「陸山会」をめぐる土地取引事件だ。2010年に政治資金規正法違反の罪に問われた小沢氏の元秘書で元衆院議員の石川知裕氏は、取り調べの際に「隠し録音」をした。それを公判前の証拠整理に出したことで、取り調べを担当した東京地検特捜部の検事が、聴取後に作成する捜査報告書に実際にはなかったやりとりを記載していたことが明らかとなり、裁判では検察の調書の多くが不採用となった。その後、小沢氏が無罪になる有力な証拠となった。
石川氏はこう話す。
「検察が録音・録画をしないということは、密室の中でどんな取り調べがあって供述調書が作成されたのか、経過が裁判所にはわかりません。私は検察の誘導、押し付け、脅しのような取り調べに、自分の身は自分で守ろうと思いました」
公判後に渡辺氏は、
「本来であれば無罪を証明してから4月を迎えたいという思いがございました。それがかなわなかったことについては大変無念に思っております」
などと述べ、今後も闘う姿勢を示した。今後に予定されている渡辺氏の公判では、案里氏の証人尋問が行われる見込みだ。
(AERA dot.編集部 今西憲之)