「証拠もいっぱい上がってますし、協力してもらえないですか?」

 と検察が組み立てたストーリーを伝え、「自白」を求めた。

「(渡辺氏の否認は)通用しないんですよ。裁判になればね、裁判官が決めることなんです、確かに。でも、この証拠がある以上は、これ動かないですよね」

 検察官はさらに続ける。

「(捜査の流れに)乗り遅れたらこう余計、(渡辺氏に)ダメージが大きくなる。ちゃんとお話をするなら早めがいいです。もう引っ込みがつかなくなっちゃって、どうなっちゃうかっていうと、はっきりいうと河井先生たちと一緒に沈んでいきます。そうなったらもう議員もやってられません」

「時間がどんどん経つにつれて選択肢はなくなっていくんですけど」

 と言葉の表現自体はやわらかめだが、内容はいわゆる“脅し”のような調べが続いた。

 河井夫妻は、この時点ではまだ逮捕されていなかった。しかし、M検事は逮捕を前提としたように、

「大掃除、一掃したいと思っている。我々は真相を解明して、本当に処罰すべき人を処罰する。国民から検察権という権利が与えられており、国民の負託に応える」

「どうされますか」

 と問い詰める。答えに窮した渡辺氏は、

「どうされますかと言われましても(買収などなく)ちょっとよくわからないです。どうしてそうなっているのか」

 と涙声で反論した。

 結局、渡辺氏は1時間を超す取り調べで否認を貫いた。

 その2日後、再びM検事の取り調べ。

 渡辺氏によると、その日の取り調べがある前に、「(その日の調べでも)認めることはない」と弁護士を通じてM検事に伝えていたといい、その2日前の「誘導、恫喝(どうかつ)するような取り調べも抗議してもらっていました」という。

 それがあったからなのか、M検事は最初から少しいら立った様子で、

「もう時間ないんで、はっきり言って」

 と話すと渡辺氏は、

「はい、じゃああの、私は(やましいお金は)もらっていないっていうのが事実です」

 とこれまでの主張を続けた。

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「可視化」したものが重要な証拠になった陸山会事件