県議会後に記者会見で「私は無罪」と主張する渡辺典子氏=2022年3月15日、広島県庁
県議会後に記者会見で「私は無罪」と主張する渡辺典子氏=2022年3月15日、広島県庁

  2019年5月に克行氏から受け取った現金についても、「例年通りの政治資金の提供だ」と検察の主張と真っ向から対立した。

 筆者は、河井夫妻の疑惑が浮上したときから、買収されたとされる地方議員ら政治家を何人も取材してきた。克行氏は現金を配る相手をリスト化し、それを東京地検特捜部に押収されたことが事件の端緒となった。

 捜査段階からリストにあった大半の政治家は現金の受領を認めていた。

 しかし、渡辺氏は一貫して、買収目的の現金は受け取っていないと否認していた。

 2020年4月から取り調べを担当したM検事は、否認を続ける渡辺氏を何度も調べた。

 検察の独自捜査の事件は、取り調べの録音・録画が実施されているが、それは逮捕者などに限られている。当時、広島地検で任意の取り調べを受けた政治家に聞くと、入り口にセキュリティーゲートがあり、所持品検査をされる。そして取調室でもボディーチェックがあり、スマートフォン、スマートウォッチなど録音機能があるものは電源をオフにされる。

 それまで2度の家宅捜索を受け、有罪前提の調べであることに渡辺氏は、「検察の調べを記録に残さないと『罪人』にされかねない」と危機感を覚え、取り調べを録音して残した。

 その内容を聞かせてもらった。以下はそのときのやりとりの様子だ。

 2020年4月はじめの取り調べ。

「では最初に、持ち物を」

「(スマートフォン)電源切っていただけますかね」

 とM検事がチェックする。

 M検事は黙秘権の告知をして、取り調べを始めた。否認の姿勢が変わらない渡辺氏に、

「しっかりと証拠が固まっているので、それで東京地検がわざわざこちらまできて、証拠がある人をピンポイントで個別に呼んで話を聞いてるわけなんです」

「最終的な証拠、決定的な証拠なのでそれはお見せできないですね。そうなるとなったら、それこそ渡辺さんに裁判受けてもらわなければならないですね」

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