ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
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(c)朝日新聞社
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 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

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 10月に入り米国株式市場が急落し、すわ大暴落かと騒がれましたが、その後乱高下を繰り返しつつも安定を取り戻しつつあります。結局あの日は一日で3.1%の下落率で、下落幅は1950年以降で80番目ぐらいでした。にもかかわらず、大暴落だ、米中貿易戦争が……などと煽(あお)るのは本当に良くないですね。日本の報道はほとんどがそんな内容でしたが、中には10ドルも下がらなかった株式もたくさんあったという面もちゃんと伝えないといけませんでした(私は自分のブログで状況を伝えていました)。

 基本的に、今の米国株式市場が「大暴落」することはないとみています。ただし「FANG」に代表されるような企業は産業自体が成熟中で、ある日突然その技術が陳腐化したり、知らないうちにライバルが現れアッという間に抜き去られたりという危険性からは逃れられません。昔のIBM、ヒューレット・パッカードなどがそうであったように……。当時この2社が今のような姿になることは全く予想できませんでした。しかも、どう見てもそのスピードは加速しています。10年後のFANG企業の姿を想像するのは楽しいですが、投資先としてはあまりお勧めできません。

 ワタクシが現在の米国経済や米国株式市場に楽観的な理由は大きく二つあります。一つは2008年当時と比べ、マクロ経済データが全く疑いようがないくらい順調だということ。そして、信用面で全く不安になる要素がないことが大きいのです。

 株式の取引にはプットオプションという仕組みがあります。あらかじめ決めておいた価格で株を売る権利で、例えば私がある株についてプットオプションを保有していたら、仮にその株が暴落しても、決まった価格で売却できるので不安はないわけです。先日の10月10日の下落時も、おそらく多くのプットオプションが発動してリスクヘッジの役割を果たしたでしょう。

 ところが08年のときは、たとえ私がプットオプションを保有していても、株式を買い取るべき証券会社が倒産してオプションが役に立たなくなってしまうというリスクがあり、それが信用不安となったのです。オプションが使えなければ、もう死ぬ気で手持ちの資産を売り続けるしかありません。その結果連鎖的に大暴落が起き、資金が底をついて本当に倒産してしまったのがリーマン・ブラザーズだったわけですね。

 金融というのはその言葉の通り、融通しあっているその信用の環(わ)が命綱です。それがお互いに信用できないとなったときに大暴落が起きる、ということになります。日本でも山一証券や北海道拓殖銀行など同様の例はあるわけで、この信用の環が機能しているかどうかが最重要チェックポイントなのです。

AERA 2018年10月29日号