14年10月の追加緩和で国債購入量を年80兆円に増加、ETF購入量も3倍の3兆円に拡大させたことが「泥沼化」の口火を切った。円安・株高が加速し、不動産などの資産投資が熱を帯びたが、設備投資や個人消費を活発にする効果はほとんどあらわれなかった。それでも強気の姿勢に固執した日銀が16年初めにマイナス金利政策を導入すると、利回りを追うマネーが躍る「日銀バブル」はいよいよ本格的に出現した。

 緩やかな増加傾向だった銀行貸し出しは、16年に大きく伸長した。個人の貸家業向けが突出して増え、地方でのアパートの新築着工が激増。それを黒田総裁はマイナス金利の「プラス効果」に挙げたが、建てすぎたアパートが将来、「負の遺産」となる恐れは高い。

 ETF購入量は16年7月に年6兆円に倍増した。ETFを買うのは幅広い銘柄を広く薄く買うのに等しく、漫然と株を爆買いする中央銀行は世界の先進国でも類例がない。日銀が間接保有する割合が5%を超える“大株主”企業は120社を数え、株式市場への介入ぶりも顕著になってきた。

 長期金利は史上初のマイナス圏に沈み、国債は満期まで持つと損になる異常な高値となった。最終的に引き受けるのは日銀だけで、国の借金を日銀が肩代わりする構図も鮮明になった。16年9月の「長期金利操作」で購入量を減らす方向にシフトしたが、日銀の国債保有割合は4割を突破し、今もなお増え続ける。

 国内の生産や輸出が堅調で企業業績は過去最高に達した。失業率も歴史的な低水準で推移する。多くの国民が年々重くなる社会保障費の負担に耐え、個人消費が芳しくないことをのぞけば、景気指標は総じて「好況」を指す。だが、企業業績は世界経済の改善が強力な追い風で、雇用統計には少子高齢化や公共工事の増加、介護の担い手不足といった要因が重なる。緩和のプラス効果が大きかったとは言い難いということは、拙著『日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)に詳しい。

 ささやかで実感の乏しい恩恵と引き換えに、利ざやが縮小する地方銀行の多くは本業赤字にあえぎ、日本の金融システムは徐々にリスクを膨らませている。

 日本の景気拡大局面はほぼ丸6年に達し、米国はそれより長い9年超に及ぶ。国内では安倍政権が大盤振る舞いした経済対策が息切れし、海外ではトランプ政権による無謀な保護主義政策による悪影響が懸念される。

 米国の中央銀行が着々と緩和の正常化を進めるのとは対照的に、日銀は景気の改善が続く間に気前よく武器を使い果たし、景気後退期を迎えても景気を刺激する策を残していない。

 それでも黒田総裁は意に介さず、9月25日の大阪市での記者会見でこう語った。

「2%の目標が実現されていない、まだ道半ばというところで金融政策を変えることはない。2%を早期に実現する日銀の政策スタンスに全く変化はない」

 態度が全く変わらないことに、不安を覚えずにいられない。(朝日新聞記者・藤田知也)

※AERA 2018年10月29日号より抜粋

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