「最近は、モダンの演奏家にも、アンドラーシュ・シフのように古楽を学び、両方を演奏する人が増えてきました。たとえばバッハのブランデンブルク協奏曲を古楽器で演奏すると、まったく違います。モダンの楽器で演奏するにしても、古楽を理解することは役に立つのです」

 幼い頃から合唱やピアノで音楽に触れていた大塚さんの場合は、バッハやヘンデルの作品に古楽の演奏で出合った時、「初めて聴くのに、なつかしい」と思ったそうだ。

「人それぞれではありますが、僕の場合はストンと胸に落ちてくるようなところが古楽の魅力かな、と思います。古楽は少数に向けて親密な空間で演奏されていたこともあり、ニュアンスが豊かですね」

 国内で開催されている古楽関係のイベントには、「古楽フェスティヴァル山梨」や「新・福岡古楽音楽祭」などがある。古楽フェスティヴァル山梨では、今年で31回目になる、日本で唯一の国際古楽コンクールもあわせて開催されている。

 長く地域に根づいた古楽祭があるなか、四国・高松で、昨年から新しく「たかまつ国際古楽祭」が始まった。

 なぜ高松で古楽祭をスタートさせたのか。30代の若い世代が中心となって運営する、この古楽祭を訪ねた。今年のテーマは「旅する古楽 コレッリからバッハ一族へ」。フルートの前身とされる古楽器フラウト・トラヴェルソの演奏家で、古楽祭実行委員会の代表を務める柴田俊幸さん(32)は、現在はベルギーを拠点にしているが、高松出身だ。

「高松で古楽祭を開催することで、瀬戸内とヨーロッパの文化的な懸け橋になれたら、と考え、ベルギー政府の支援、地元の友人、知人の力を借りて、古楽祭をスタートしました」

 今年はベルギー屈指の古楽アンサンブルグループ「イル・ガルデリーノ」が来日。公演では、30年以上の歴史を持つ、高松市内の檀紙小学校リコーダー部との共演もおこなった。

「僕自身の古楽との出合いは、ブリュッセル・フィルで客員奏者として活動していた時期に、精神的なストレスから思うように吹けなくなったことがきっかけです。演奏を続けるのは難しいと感じていたときに古楽に出合いました。古楽器の特有な儚く優しい音。現代の楽器とは違う『不完全な美しさ』に救われたんです」

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