ろう教育の第一人者、前田浩さん(中央)が、自らの知識と経験を注ぎ込む就労移行支援事業。調理実習などバラエティーに富んでいる(撮影/編集部・大平誠)
ろう教育の第一人者、前田浩さん(中央)が、自らの知識と経験を注ぎ込む就労移行支援事業。調理実習などバラエティーに富んでいる(撮影/編集部・大平誠)
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 聴覚が不自由な「ろう難聴者」の就職を支援するため、半年前に「大阪ろう就労支援センター」(大阪市中央区)が設立された。実はろう者は離職率、転職率が高く、その背景には、受け入れる職場とろう難聴者側のコミュニケーションの問題があるという。同センターでは、そうした問題にアプローチすべく、新しい取り組みを行っている。

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 同センターが力を入れているのは、学校教育ではカバーしきれない領域だ。具体的には(1)スキルアップ(エクセルやワードなどパソコン技術を学び、資格も取得する)(2)ソーシャルスキルトレーニング(手話と日本語を駆使し、自分のことを伝え、相手の意図することをくみ取るコミュニケーション能力を向上させる)(3)就活応援(ハローワークなど関係機関と連携)の三つが柱という。

 そして就職後もジョブコーチと連携し、楽しく仕事ができる環境を無理なく作り上げていくのが目標だ。同センター理事長で、自らも聴覚障害者の前田浩さん(65)は言う。

「あいさつ一つとっても、ろうの社会では手を上げるだけでも失礼ではないけれど、一般の会社で上司に手を上げて『オス』じゃまずいわけです(笑)」

 敬語の使い分けも難しい。一人称だけでもたくさんあり、社内と社外で敬称の使い方が違うなど、「ろうのコミュニケーションでは経験したことがないので覚えるのも大変なのです」(前田さん)

 つまりろう難聴者は、日本語と手話という二つの言語と、それに付随する二つの異なる文化の中で生きており、前田さんは「ろう難聴者には両方の世界が必要だ」という。

「職場にいる健聴者に対して歩み寄るために、自分は何ができて何ができないのかを理解し、できないことを身につけるのが大事です。生活のリズムをきちんとつくる自立訓練も大切。我々はそうした力をつける手助けをしていきます」

 前田さんが職場の理解と働く側の意欲を近づけさせる必要性を痛感したのは、大学生時代に経験した居酒屋でのアルバイトがきっかけだ。友人に誘われて一緒に働き始めたが、注文を取り料理を運ぶ接客が中心で、1日目から客のオーダー内容がわからず立ち往生し、見かねた友人に助けてもらった。

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