中間選挙直前の米国で、社会分断が再び深刻だ。反トランプ派は大統領弾劾を視野に攻勢を強め、トランプ派は結束を固め徹底抗戦。まるで国内冷戦のようだ。
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政権発足当時からのど元に刺さったトゲとなっているロシア疑惑をめぐる司法捜査では、トランプ氏の元個人弁護士マイケル・コーエン氏が、大統領の不倫相手2人に口止め料を払ったなどとし、選挙資金法違反などを認めた。元選挙対策本部長ポール・マナフォート氏は別件の詐欺などで有罪評決を受け、捜査当局の手中にある。辞任が決まっているホワイトハウスのドン・マクガーン法律顧問は捜査に積極的に協力している。いずれも16年の大統領選でのトランプ氏とロシアの共謀関係などの捜査指揮をとるマラー特別検察官の存在が背後にある。
トランプ大統領は、ロシア疑惑の捜査への助言を恐れて元政府高官の一部の機密情報へのアクセス権を剥奪(はくだつ)したり、指揮官のマラー氏の解任を模索したり、強い抵抗を示している。しかし、自身が任命した閣僚であるセッションズ司法長官は「私が長官の間、司法省の行動は政治的配慮で不適切に影響されることはない」として、捜査への政治介入は許さない方針だ。
意にそぐわない閣僚は次々とクビを切ってきたトランプ大統領だけに、ケリー首席補佐官もセッションズ司法長官も中間選挙後には辞職に追いやられるとの臆測が絶えない。ニューズウィーク誌によると、政権の安定剤だったマティス国防長官も、ボルトン国家安全保障補佐官ら強硬派が政権内で力を誇示する中、地位が危ぶまれているという。
「ここ数十年で分断や怒り、そしてパラノイア(被害妄想)の政治が、不幸なことに共和党内に居座ってしまった」
9月7日、オバマ前大統領はイリノイ州の大学で講演し、大統領経験者は現職を語らないという慣例を破って、トランプ大統領と共和党の政権運営を酷評した。中間選挙を前にして強まるトランプ大統領への逆風は、政敵・民主党を勢いづける。大統領追及の必要性を訴える民主党執行部は、下院で過半数を奪回すれば、現在は多数派の共和党が消極的な疑惑解明に、議会の権限を駆使して積極的に乗り出す方針だ。大統領弾劾(だんがい)には上院で3分の2の賛成が必要でハードルは高いが、弾劾の発議は下院の過半数の賛成で可能(図)。そこを見据えた戦いが中間選挙となる。ロシア疑惑の捜査の結果次第では、弾劾への勢いがつく可能性もある。弾劾が下院で発議されるだけでも歴史的で、大統領には痛手だ。