
どんな役にも染まる俳優と評され、いまや「時の人」である。今週から3カ月ぶりにNHK朝ドラ「半分、青い。」に再登場する。中村倫也にとって演じることとは──。
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質問を投げると「うん、うん」と、相づちを打つ。丁寧な言葉遣い。それでいて、語尾は軽やか。初対面なのに距離を感じさせない。
中村倫也(31)の話しぶりを言葉にするのはなかなか至難の業だが、少しは伝わるだろうか。現在放送中の朝の連続テレビ小説「半分、青い。」で演じた穏やかなモテ男、朝井正人と重なる。曰く、
「正人を観てくださっていた方が多いので、最近は『物腰を柔らかくしなきゃ』と気をつけているんです(笑)」
物語から姿を消した6月、“正人ロス”という言葉まで生まれた。一躍注目を浴びる存在となったが、これまで着実に経験を重ねてきた。おもに舞台からスタートした役者としてのキャリアは、今年で14年目を迎える。
もともと役者を目指していたわけではない。幼少期から10代半ばまではサッカー一筋だった。仲間とプレーするのがただただ楽しくて、高校もサッカーの強豪校へ。だがそこで、上下関係の厳しい、勝負ありきの世界に疑問を感じ、身を引くことを決める。スカウトされたのは、ちょうどその頃だ。
思えば、小さな頃から映画は身近な存在だった。母親が映画好きで、学校から戻ると、ハリウッド大作の「スピード」もインド映画の「ムトゥ 踊るマハラジャ」も、家で毎日のように流れていた。家族と外食をする土曜日の帰り道。兄とじゃんけんをし、兄が勝てばプラモデル店へ、中村が勝てばレンタルビデオ店へ。母が借りた映画を家で観ることがお決まりとなっていた。
とはいえ、人生に役者という選択肢が現れたときは「まさか」という思いだった。
「でも、サッカーという小さな頃から一番好きだったものを手放してしまった後悔はあって。そういう意味での挫折は経験しているので、『次に好きになるものは、簡単に手放してはいけない』というような思いはありました」
「根は雑草だから」と中村は言う。いまこうして、雑誌の表紙を務め、「時の人」と言われることにも、自分が一番追いついていない、とも。
世間ではどんな色にも染まるカメレオン俳優と評されるが、「自分は憑依型ではない」と言い切る。