


トランプ米政権の自国優先主義の影響が各地で深刻化している。「権力に酔った」大統領による「帝国」が、自国のみならず世界中で暴走を始めた。
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「年末までに状況が好転しなければ、政府が移住に寛容なカナダに生活を移そう」
エーゲ海に面するトルコ第3の都市イズミルの自宅で、インドネシア出身のアリンさん(31)はトルコ人の夫と向かいあいながら、今後の生活について話し合っていた。突然の物価上昇で、日常生活品などの値段が平均20~25%もアップ。50%も高くなった品物もあるという。
「輸入品が多いトルコで、貨幣リラ下落の悪影響は日常生活を圧迫する。改善の見通しがなければ、国を出るしかない」
リラが急落したのは8月10日。トルコで2016年7月に起きたクーデター未遂との関係を疑われた米国人牧師のトルコ政府による長期拘束などを問題視していた米トランプ政権が、トルコ産鉄鋼・アルミへの追加関税措置を発表したことが引き金だった。リラ安を受け、アルゼンチンなどの新興国通貨の売りにもつながり、金融市場は大混乱に陥った。
アリンさんによると、SNS上では「米国が経済戦争をしかけた」「米ドルを売って報復しよう」などという反米コメントがあふれている。「経済戦争」という言葉を使い反米意識をあおるトルコのエルドアン政権の呼びかけの下、ドルやユーロを売ってリラを買うキャンペーンが続く。市場ではリラに両替した証明があれば、値引きやおまけの対象になるサービスも始まった。米国製品のボイコット運動も広がっているという。
ただ、冷静に状況を見ているトルコ人も多い。英国人女性と結婚して英国で暮らすオムルさん(34)によると、リラ急落は、エルドアン政権の経済政策の失策が根本原因だが、政府批判を許さない現政権下で、国民は反米に不満のはけ口を見いだすしかないのだという。
「敵を見つけて攻撃することを推進力とするトランプは、金髪のエルドアンであって、2人は同じ性質の人間。傲慢で強権的で、自身を常に強く見せたい。2人のやり方はとても似ている」(オムルさん)