東京・新大久保──。コリアンタウンとして知られるこの街に異変が起きている。
【ベトナム料理店「ヘオちゃん」で働くグェンさんとあひるの蒸し料理】
「イスラム横丁と呼ばれるハラルフードを扱う店に出入りするムスリムの外国人が増えたうえに、日本語学校に通うベトナム人などの留学生が増え、多国籍化しています」(地元商店会)
日本語学校が新宿区周辺に集まっていることも影響し、同区内の新大久保に留学生向けの飲食店が増えているという。大久保通り沿いに2015年9月にオープンしたベトナム料理店「ヘオちゃん」もその一つ。店主のフィーさん(36)はこう話す。
「お客の7割はベトナム人です。仕事で来ている人と、留学で来ている人が半分半分です。新大久保周辺には30軒ほどベトナム料理店があり、今後も増えていくと思います」
ベトナム料理と言えば米粉麺のフォーや生春巻きが有名だが、ここでは日本人しか注文しない。日本語学校の留学生で、同店でアルバイトをするミさん(20)が人気料理を教えてくれた。
「鶏肉料理は家でも食べられますが、日本のスーパーなどでは手に入らないあひる料理や、カエル料理が人気です」
確かにメニューには、あひるを使った料理が5種類、カエルを使った料理が3種類あった。ベトナム料理は女性人気が高く、ヘルシーなイメージがあるが、
「日本人は積極的に野菜をとろうとするのでサラダをメニューに入れていますが、ベトナム人は気にしていないので、サラダを注文することはありません」(前出のフィーさん)
周囲のベトナム人が注文するものこそ、本場のベトナム料理ということか。ベトナム料理研究家の伊藤忍さんが解説する。
「日本で有名なフォーは、フランス統治時代以降にベトナム北部で生まれた新しい食べ物で、南部に住んでいる人なら月1回食べるかどうか程度です。生春巻きは南部発祥ですが、こちらも歴史は浅く、北部の人なら一生食べずに終わる人もいるかもしれません。揚げた春巻きのほうが全土でポピュラーです」
日本同様、豚・鶏・牛肉は一般的だが、あひるやカエルも日常的に食べられる。カエルはお酒のあてとしても使われる。
「ベトナムは実は肉料理が基本の国。家庭料理のだし汁も豚からとります。むしろ男性が満足する料理が多いのではないでしょうか」(伊藤さん)
(編集部・澤田晃宏)
※AERA 2018年8月27日号より抜粋