秘策の一つが、真っ赤な車体の「コカ・コーラ列車」だった。

 しなの鉄道の前身のJR信越線では1987年から約4年間、「コカ・コーララッピング電車」が全面広告列車として走っていた。コカ・コーラ列車はそれを復活させる事業で、同社の開業20周年を記念して昨年4月から始めた。まずは、信越線時代に走っていた「初代長野色」、緑とオレンジの「湘南色」、クリーム色と青の「横須賀色」と、懐かしの車体カラーを次々と復活。これで勢ぞろいさせたと思いきや、ネット上や社内から「コカ・コーラ色が残っている」と声が上がった。しかし予算を使い果たしていた。思いついたのがネットを使って資金を募る「クラウドファンディング」の活用だった。

 最終的に519人から400万円近くが集まった。こうして今年3月から走りだしたコカ・コーラ列車は、新たな乗客獲得につながり、地元も盛り上げているのだ。

「地方創生は掛け声だけではできない。具体的な形をつくって、採算がとれるビジネスモデルを構築しなければいけない」

 と話す玉木社長がいま考えているのが、年間850万人近く軽井沢を訪れる観光客の取り込みだ。

しなの鉄道沿線は農産物やワインなど上質かつここでしか楽しめない物が豊富。すでに昨年から、同社が持っている観光列車「ろくもん」を活用し、車内で沿線のワイナリーのワインを楽しむ「ワイントレイン」を走らせたり、起点となる軽井沢駅を集客施設にリニューアルしたりなどさまざまな挑戦を始めている。

 鉄道には門外漢だった玉木社長が目指すのは、鉄道と観光、そして地域の心を連携させ地方が生き残れるモデルをつくること。力強く、こう話した。

「うちの小さな成功事例で全国の地方鉄道に勇気を与え、全国の地方を元気にしたい」

 鉄道という地域のシンボルを通して、新しい地方創生が、今はじまろうとしている。(編集部・野村昌二)

AERA 2018年7月30日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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