この物語が子どもたちに与える影響を懸念する声は多い。
「植物が成長する自然現象を、わがままと結びつけるのは無理がある」「これでは『悪いことをしたら痛い目にあっても仕方ない』という話になってしまう」「時代錯誤な教訓話と思われて仕方ない」
教科書自体に問題がある、というのは、千葉大学教育学部教授で『道徳授業の迷宮』などの著書がある藤川大祐さんだ。「どんな社会背景を基盤にしているか謎で、多くの話にリアリティーがなさすぎる。評価するのは無理がある」と断じる。
「考えて議論をするなら、現実味のない話ではなく、現実に即して、多様性や少数派の立場に目を向ける教材を用意すべきでした」(藤川さん)
現場では、話の結論まで読ませず議論するなど、試行錯誤を重ねている。子どもが何を学び取るかは、どんな授業をするかにかかっているからだ。「善悪の判断」「誠実」「国や郷土を愛する態度」など、各学年で教える19~22の項目は決まっているが、内容を網羅すれば、順序や使う教材は現場に任されている。
だが、教諭の仕事は激務で、道徳の授業の準備に十分な時間を割ける状況ではないという。
「道徳や英語が加わり、現場は疲弊しています。教科書の目次順に、教科書会社が作った『ワークシート』や『学習ノート』を使って進めたほうが効率的です」(教育関係者)
こう危惧する教諭もいる。
「教科になった以上、『狙い』に従い子どもの変容を見て評価する、と考える先生が多いと思います。結局、子どもの心の評価につながるのでは」(30代教諭)
「いずれ、『取り組み』ではなく、管理職から『成果』を書くよう指導されるのでは。『数値化』の話が出ることもあるかもしれません」(50代教諭)
お子さんの通知表、道徳欄には何が書いてありましたか。(編集部・熊澤志保)
※AERA 2018年7月30日号