開成、麻布、灘──。東大合格者数のランキングでは私立有名校が目立つ。だが地方に目を移せば、地域を代表する進学校は公立が多く、私立優位は錯覚とわかる。特に「旧制一中・二中」を起源とする名門校は、伝統行事や校風も魅力だ。
愛知県の旭丘高校は、ソニー創業者の盛田昭夫、トヨタ自動車会長の内山田竹志らの母校。地元有力企業の経営者も多く輩出している。鯱光会という同窓会組織が強力で、周年行事では巨額の寄付金が集まる。
東大合格者数ランキングでは目立たないが、土地柄、関東にも関西にもバランス良く合格者を出しており、2013-17年の5年間の東大・京大・国公立大医学部の合格者総数ランキングでは公立高全国1位だ。
さぞかし受験指導に力を入れているのだろうと思いきや、特別な受験指導はしていない。東大コース、医学部コースのようなコース分けもない。1970年前後の高校紛争では、生徒たちは血気盛んに主張し、自由でバンカラな校風が確立した。現在も制服はない。
静岡高校は静岡県有数の進学校であり、高校野球の強豪としても有名だ。甲子園出場は通算41回で全国14位。常に有名な監督がいるわけでも、他県から強い選手をスカウトしているわけでもない。部員数も3学年で30人ちょっと。「個々の力は弱くても、集団になったときに人数以上の力を発揮する文化があります」と同校教員は言う。それが学校全体の文化にもなっている。多数のプロ野球選手のほか、ベストセラー『声に出して読みたい日本語』の著者で明治大学教授の齋藤孝や漫画家のしりあがり寿も同校出身だ。
石川県の金沢泉丘高校は「化学グランプリ」「科学の甲子園」などで多数の受賞者を出した。08年には「国際地学オリンピック」銀メダリストも出た。03年から文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールに指定され、大学進学だけでなくアカデミックな探究に意欲を燃やす文化が醸成された。15年からはスーパーグローバルハイスクールの指定も受けており、鬼に金棒。結果、東大への進学者も増えた。
俳優の菅原文太や劇作家の井上ひさしの母校、宮城県立仙台第一高校では、応援団が異様な存在感を放っている。
生徒たちは私服で学校に通うが、応援団員は「ボロラン」と呼ばれる、何十年も受け継がれているつぎはぎだらけの学ランを着ている。特に応援団長は神格化され、授業時間以外はほかの生徒の目に付かないところに隠れる。夏の高校総体が終わると約2年間伸ばし続けた髪を切り「人間宣言」する。さらにユニークなのが、応援団員たちの言葉遣い。新入生に応援の指導をする際、「集まってくれ」「歌ってくれ」とお願い口調を貫く。理由は学校の標語の「自発能動」にある。強制を嫌う校風なのだ。その精神は行事運営にも表れ、文化祭や運動会は毎年「発起人」によって提案され、誰も発起しなければ行事はなしとなる。
地方公立名門校は、社会のリーダーを育てることを宿命づけられてきた。ゆえに、勉強ができるだけではダメという文化が共通している。珍妙な伝統が受け継がれ、全国レベルで活躍する部活がいくつもあることも珍しくないのだ。(教育ジャーナリスト・おおたとしまさ)
※AERA 7月16日号