昨年6月に起こった安倍元首相銃撃事件では、山上徹也被告は犯行直後から「母親が“ある宗教団体”にのめり込んで多額の寄付をしたことで家庭が崩壊。恨みがあったと供述した」などと報じられた。それをきっかけに旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と政治家とのつながりが次々と明らかになり、報道も過熱した。
「ところが、今回の事件では既存メディアは何を核にして報ずるべきかをすごく迷っている感じがします。着地点もぜんぜん定まっていない。各党が『民主主義の根幹である選挙制度を破壊するものだ』という建前もわかるのですけれど、本当にそうなのか、という感じもする」
事件前の4月11日、木村容疑者のものと思われるツイッターには、こう書かれている。
<投票数の分母が減った分、組織票や宗教票が幅を利かせることになり、一部の為の政治が行われ、世襲と腐敗が再生産されます。投票だけは行っている、民主主義風の専制政治国家が日本です>
「だから、今回の事件が自民党政権に対する不満に根ざしたものなのか。社会的な問題を提起しているのだったら、よくも悪くもある種の共感を生むのだろうけれど、今の段階でよくわからない」
■刹那的なコメント
報道が戸惑っているのは、今回の事件が統一地方選の最中に起こったことも起因しているという。
「報じ方によっては、特定の政党や候補者へ投票を誘導しかねません。なので、ワイドショーなんかを見ていると、なるべく憶測を盛り込まないように、事実報道に徹しているように感じます。断定的に言わないようにもしている。それは多分、局サイドからコメンテーターに指示がなされているのでしょう」
テレビからの情報を基にネット上で発言が広がっていくのはよくあることだ。しかし、ネットで発言する人の多くは事実関係を調べて発言しているわけではない。
「知り得た情報を正しく読み解いて発信するのではなく、パッと入ってきた情報に対して、刹那的にSNSなどに書き込んでしまう。それがいわゆるフェイクニュースが増幅される構造です。今回は抑えた報道がされていることもあって、フェイクニュースが広がっている、という感じではないですね」
一方、事件に乗じたネット上の政権批判のコメントについて、矛盾するようだが、「アンチ自民党ではないでしょう」と、砂川教授は指摘する。というのも、多くのコメントに右傾化のにおいを感じているからだ。