カンヌ国際映画祭パルムドール受賞の「万引き家族」に「モリのいる場所」。公開中の2作品の、樹木希林さんのリアルな演技に多くの人が圧倒される。いかに「人間」「日常」を描くのか。縦横無尽に語ってもらった。
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「女優がそんなことをするのは、ヌードになるより恥ずかしいことですよ」って人に言われた。入れ歯をはずしたのよ。映画「万引き家族」で。髪の毛もだらぁと長くして、気味悪いおばあさんでしょう?
自分の顔に飽きたの。是枝(裕和)監督の作品に出るのも、これが最後だと思ったから提案したわけ。私ももう後期高齢者で、店じまいを考えないといけない時期ですから。
それに、人間が老いていく、壊れていく姿というのも見せたかった。高齢者と生活する人も少なくなって、いまはそういうのをみんな知らないでしょう? 映画のなかで、みかんにかぶりつく姿がすごいと言う人もいるけれど、実を歯ぐきでしごいたの。歯がないって、そういうことなのよ。
雷が落ちた話も本当よ。カンヌに向かう途中の飛行機でね。離陸して間もなくだった。ドッギャーンってすさまじい音がして、私の座席の上の(内壁の)天井が破れて、破片やらなにやら色々落ちてきた。黄色い酸素マスクが三つユラユラ揺れて、まるでくす玉が割れたみたいだった。
カンヌに着いて「飛行機でくす玉が割れちゃったから、カンヌでの賞はもうないと思うわ」って言ったら、「やめてくださいよぉ」ってみんなに嫌がられたわね。そうしたら、逆だった。あれは、パルムドール受賞の、前奏のファンファーレだったわけよね。
是枝さん、これでファーストクラスに3回くらい乗れるわね。私は是枝さんから聞いた話で、大好きなエピソードがあるの。是枝さんが小学校半ばごろの話なんだけれど、学校の先生に「是枝君、あそこで騒いでいる生徒たちを静かにさせて」「この子たちにこっちの掃除させて」って。「是枝君」「是枝君」と言われるたび、「はい」「はい」って先生に言われる通り、一生懸命やってたんですって。それで、その年の通信簿が配られて、その通信欄に書かれていた、先生のひと言が「是枝君は、子どもらしい伸びやかさに欠ける」。
笑ったわねぇ(笑)。おかしいでしょう。でも、大好きなエピソードなのよ。先生はなにげなく書いたんだろうし、実際そうだったんだろうと思う。だけどなにか後まで響くわよね、こういうのって。で、人生をそうやって見てきているのが是枝さんなのよ。