17年7月までに集まったアイデア1293件から81個の模型をつくり、そのうち31個を試作品にして検証。さらに3個に絞って住空間に取りつけ、使ってみた。その間、わずか3カ月。

成果をもとに、今年秋には住空間向けサービス「ホームX(エックス)」の第1弾を、パナソニックホームズがリリースする。住宅設備、住宅、建材、家電などの10を超える事業部が連携している。住宅関連事業を受け持つ社内カンパニー、エコソリューションズ社の北野亮社長によれば、「照明、空調、インターホン、給湯といった複数の操作系統が混在する環境でインターフェースを統合するもの」だという。

 パナソニックβを指揮するビジネスイノベーション本部の馬場渉本部長は、「パナソニックβは、これまでの『タテパナ』の延長線ではない新たな手法を用いながら、100年前に創業したときの原点に回帰することを目指す」とする。

 大企業となったパナソニックにはさまざまな制約が生じた。アイデアを商品にする場合、数万台規模のビジネスが想定できるものでなくては前に進めない。結果として、確実に売れるものしかつくらない風土が、自然と社内に生まれた。幸之助が創業したときには、ベンチャー企業の精神で社会に役立つものを提供しようと考えただろう。初期の製品である二股ソケットも10日間で100個売れただけ。規模が見込めるビジネスに限定されていたら、生まれなかった商品もあったはずだ。

「パナソニックβはスマホに搭載されるOSをまったく新たなものに入れ替えるぐらいの大きな転換となる。サイバーフィジカル(実世界で集めた情報をコンピューターが分析し、実世界で活用する循環)の時代が続く限り、使い続けられるようにしたい」(馬場本部長)

 次の100年に向けた大手術の一歩がパナソニックβだとすれば、いまはまだ始まったばかりともいえる。結果次第で、津賀社長が目指す「イノベーションが得意な会社」を実現できるかどうか、最初の答えが出てくるのではないだろうか。(ジャーナリスト・大河原克行)

AERA 2018年6月18日号より抜粋