だが、米朝間で日朝の話にどこまで時間を割けるか。事前協議の最大の焦点は北朝鮮の非核化で、「6.12」ありきでは拉致問題の扱いがあいまいになりかねない。「中止支持」の背景にはそんな構図がある。
さらに韓国が「6.12」へ強力に後押しする。文氏は5月26日の金氏との会談で22日の米韓首脳会談について伝え、「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和体制への旅程は決して中断されない」と確認。「6.12」は「旅程」の一里塚だ。
安倍氏はトランプ氏への拉致問題インプットに躍起だ。
5月28日夕、森友・加計問題での国会集中審議を終え官邸に戻ると被害者家族に会い、「米朝首脳会談がキャンセル、あるいは行われるような報道をされ、トランプ大統領から拉致問題に言及があるかご心配だろう」と語った。直後にトランプ氏に電話で家族の声を伝え、「解決が絶対に必要だ」と訴えた。
事前協議は動きだしたが、トランプ氏の出方は読めない。「中止」表明2日前の5月22日には、ホワイトハウスでの文氏との首脳会談冒頭で記者団にこう愚痴ってみせた。
「金正恩は(5月7日に)中国で習近平国家主席と2度目の会談をして少し変わった。少し残念だ」
ただ、それは虎の威を借る狐に対してではなく、虎そのものへのメッセージ。トランプ氏は米中関係を語り続けた。
「習主席はワールドクラスのポーカープレーヤーだ。たぶん私と同じことをしている」「私は中国との貿易について考える時、中国が北朝鮮についてどう助けてくれるかも考えている」
トランプ劇場というより、カジノ・トランプ。場が荒れて焦れば手の内をさらす。そんな駆け引きに生きるトランプ氏との「友情」だけが安倍氏の切り札では心もとない。「日朝首脳会談」のカードを切れるかどうかは米朝首脳会談次第だ。
「6.12」とその先へ、ぎりぎりの戦いが続く。(朝日新聞専門記者・藤田直央)
※AERA 2018年6月11日号